約 14,822 件
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/845.html
2] Accelerator01―芳川桔梗の優雅な朝食 バターが塗られたこんがりトースト、ちょっと半熟な目玉焼きとカリカリのベーコン、そしてニンジンとレタスのサラダ。 割とありふれた洋食風の朝食の風景。 学園都市の教員用4LDKのマンションの一室の空気を和やかにさせる仄かに香る引き立てのコーヒーの香りが優雅な ブレックファーストを楽しむ―いや楽しみたい芳川桔梗の鼻腔をくすぐる。 「愛穂にしてはいい豆ね、貴方達もコーヒーでも飲んで一旦ソレ止めない?」 目の前のテーブルで広がる小規模戦闘を少し開けた目でちらりと覗き、当事者2名に提案する。 『やなこった』 当事者二名は芳川の好意的な提案を即座に却下した。 芳川はその返答を半ば予想していたので「あっそう」とだけ言うと 求人情報が載っている雑誌に視線を移しパラパラとめくるがやはりなかなか良い条件の就職は無い。 ひょい、ひょい、ひょい、ひょい。 器用に動かされる幼女の手に握られた二本の箸が高速でニンジンを隣の皿へと運ぶ。 隣とはつまり芳川の皿の事だ。 (この子達は本当に……) いまだに徹底抗戦を続ける意思満々な目の前の二人はこの教員用4LDKの主である黄泉川愛穂の居候と化している。 「ヲイ、このクソガキ」 「ヘヘヘヘ、とミサカはミサカは不敵に笑ってみたり」 芳川桔梗は黄泉川愛穂とは結構長い仲である。 親友、そう呼んでも構わないと、少なくとも芳川はそう思っている。 彼女は普段から竹を割ったような性格をしているし何より面倒見が良い。 [一方通行](アクセラレーター)と[打ち止め](ラストオーダー)の学園都市屈指の問題児2名をもその異様なまでの面倒見スキルを発揮し 快く受け入れてしまった。 芳川はついでである。 1本でもにんじん、2本でも……。 とにかく芳川の前に置かれた皿はこんもりと盛られたオレンジ色の物体が占領していた。 [打ち止め](ラストオーダー)が自分の皿から芳川の皿へと移してるためだ。 黄泉川愛穂はなんでも今日が自分の勤める学校の終業式とかで朝早くから出かけてしまっているので今朝は3人しか居ない。 せわしなく動かされる幼女―[打ち止め](ラストオーダー)のオレンジ色の箸を少年の青い箸が迎撃し空中で「ガシィ」と交差する。 虚空をニンジンが舞う。 真っ白なテーブルクロスの上に落下したニンジンを芳川はひょいと指でつまんで自分の口へと運ぶ。 世の中には3秒ルールと言うものがあるのだ、だからこれはまだセーフ。 「ニンジン、おいしいわよ」 ちなみにこの朝食を作成したのは芳川でも黄泉川でも無く、食卓で暴れる2人のうちの一人の少年だ。 その少年を目だけ動かして見てみる。 どこか中世的な顔をした少年。 色素が抜けたかのような真っ白な髪の毛、白髪とはまた違っていた。 どちらかといえば銀髪に近いかもしれないが、肝心の少年自身が髪の手入れなどあまりしていないのかボサボサ感がある。 きっとキチンと手入れすればそれこそ輝くようなキューティクルが手に入るだろう。 (本人はやる気無さそうだけどね――) そして次に特徴的なのは鋭い眼光を放つ目、まるで猛禽類のような残忍な光を讃えてるのが普通なのだが、いまはどっちかといえば ウサギといったほうがピンと来る。 ちなみに少年の目が赤いのはニンジンの食べすぎでは無いとだけ言っておく。 少年の持つ超能力の影響というか副作用が原因なのだがその眼球は、鮮やかな深赤の色合いをしている。 好意的に表現するならガーネットあたりの宝石のように見えなくも無い。 だがそれよりは血の色、と言ったほうがしっくりは来る。 (まぁ最近は大分丸くなってるみたい) 少年は[一方通行](アクセラレーター)と呼ばれるこの学園都市で最強の超能力者(レベル5)、ある事件によって脳に傷害を負っているが 相方と化している10歳ぐらいの幼女の補助によりその昨日を補っている。 彼の首に装着されたチョーカーのような装置がそれだ。 [冥土返し]の医者曰く―演算補助デバイスというらしいが見た目にはチョーカーとポータブルプレイヤーにしか見えない。 今の彼は青いチェック柄のエプロンをつけ頭にも同色のバンダナが巻かれている。 おさんどんスタイルというやつだ。 意外にも結構似合っているので余計におかしい。 「ム、ムムム、お願いだから箸をどけて欲しいかも、とミサカはミサカは悲痛な願いを口にしてみる」 「断るッ」 激しい鍔迫り合いで両者の間に火花が飛び交い、ギギギギギギ、と交差した箸と箸が耳障りな音を立てる。 「行儀、わるいわよ、二人とも」 一応年長者の務めとばかりに注意しても 「ニンジンだけより分けるんじャネェよ、ニンジン食え、ニンジン。 カリカリと生のままかじッてろ!」 「だが断る、とミサカはミサカは奇妙な冒険が好きな某人気漫画家の先生の真似とかしてみたりする」 わんぱくすぎる二人は聞こうともしない。 諦め気味にTVのリモコンを操作して朝のニュースを映すと若い男のニュースキャスターが 最近学園都市で起こっている事件の事を報道していた。 「失踪事件ねぇ……」 先月の終盤あたりにまず一件、そして今月の初めに一件。 1週間ぐらい前に一件、どれも突然何も告げずに姿を消してしまうのだ、 普通ならそのまま行方不明になるのだが、この事件の被害者は何故か数日後にひょっこりと街を歩いてるところを発見されたりしている。 ただ、いままでどこに居たのかはまるで覚えておらず、軽い記憶障害を起こしている事と被害者が全て女子というのが共通点だ。 特に暴行された形跡も無く大した事件にはなってないがそれでも連続して起こればそれなりに報道機関の目を集めるのだろう。 丁度テレビには被害者の女の子の友人のコメントなどが流れていた。 『ええ、どこに居たのかとか聞いても、そう……とか、わかった……とか気力の無い言葉ばかり返ってくるんです』 『戻ってきてからボーっとしてる事が多くなった気がする』 どれもありきたりなコメントばかりで目を挽く物は無い。 芳川は嘆息するとリモコンを操作して別の番組へとチャンネルを変えた。 さて一方通行の猛攻をひらりとかわす幼女はといえば、そのオレンジがかった髪の毛を揺らし、彼をおちょくりまくっている。 見た目10歳児の幼女、彼女は御坂美琴と同一のDNAマップを元にして作成された[妹達]が形成する擬似ネットワーク[ミサカネットワーク] それを束ねる上位個体だ。 個体名は[打ち止め](ラストオーダー)、20001人目の[妹達]でもある。 あどけない顔を今は「ぷくー」と膨らまして一方通行に対して「ニンジンいらないよ」などとどこかの士官学校のパイロットのような 台詞を吐いている。 あまり品の良くない笑みを浮かべた一方通行が銀色のトングを使ってたっぷりとオレンジ色の物体を彼女の皿へと盛り付ける。 どうやら相方のガキンチョ様も一歩も譲る気は無いようで懲りずに芳川の皿へとニンジンを転送する。 「このクソガキが。 お子様はニンジン食べてすくすく育ちやがれ」 右手でオレンジの箸と銀色のトングでドッグファイトを繰り広げながら、一方通行は左手に持った2本目のトングで芳川の皿に こんもりと乗ったニンジンをガシッ!と掴むと、 「四の五の言わずに食えッ!食いまくれッ!そして寝ろッ!!」 オレンジ色の物体を銀色のトングから射出した。 「がーんっ! ニンジンいらないって言ったのにッ! アナタの目が赤いのはきっとニンジンの食べすぎが原因に決定、とミサカは ミサカは新たな新事実をミサカネットワークに流出してみたりする!がしがし」 幼女がせっせと寄り分ける先からどんどんニンジンが追加されていく。 一方通行→[打ち止め](ラストオーダー)→芳川→一方通行といった図式の綺麗な円運動が出来ているようだ。 完全循環、そんな言葉が芳川の脳裏を掠めた。 「入れすぎじゃないの?それ」 うっすら涙目になりつつある[打ち止め](ラストオーダー)を見かねて少しだけ助け舟を出してやることにした。 [打ち止め](ラストオーダー)の皿はもはやオレンジ以外の色を探すほうが困難なぐらいオレンジ色に染まっている。 「はッ、お子様にはこれぐらいカロチンを摂取させたほうがいいンだよッ」 彼は青いエプロン姿で胸を張って正当性を主張している。 「ブーブーッ、ってミサカはミサカは横暴な貴方に断然抗議してみたりする」 「やかましい、クソガキが一丁前に好き嫌いすンじャネェよ」 もはやニンジンしか見えないくらいに山盛りのニンジンサラダをせっせと別の皿へとより分ける[打ち止め](ラストオーダー)。 なんていうか……健気だ。 程なくして[打ち止め](ラストオーダー)のサラダの皿から綺麗にオレンジ色が消えうせた。 消えうせた分のオレンジはそっくりそのまま芳川の皿へ。 その様子を腕を体の前で組んで見守っていた一方通行の腕がゆらりと解かれ、その赤い瞳が猛禽類の光を宿す。 獲物を狙う鷹の目、口元は残忍な形にゆがんでいる。 なんでこの子はこんな表情ばっかり上手いのだろうか……。 「やめときなさいよ……」 芳川の忠告などお構いなしだ。 彼は躊躇する仕草すら見せない。 代わりに「なにを言ッてるンだァ?」とでも言いたそうな顔をこちらへ向けてくる。 とりあえず芳川は右手を横にひらひらと振って「もういい」と意思表示する。 ともかく、一方通行の手が動いた。残像すら残るぐらい高速で右手に持った銀色のトングが閃く、そして、 「待ッていたンだよッ、この時をなァ!」 芝居掛かった動きで一閃、トングは芳川の皿により分けられたオレンジ色の物体を根こそぎ掻っ攫い頭上高く掲げあげる。 「はぅ!? そ、それで何をする気なの……びくびく、とミサカはミサカは邪悪な真性Sな貴方を見ながら恐怖で怯えてみたり」 一方通行はゆっくりと[打ち止め](ラストオーダー)の皿の上に移動して停止した。 まるで原作3巻のラストバトルのワンシーンようだ。 今回集めたのはニンジンだけど。 [打ち止め](ラストオーダー)を見下ろす彼の目は悪ガキの目になっていて、心なしかなんだか楽しそうにも見える。 「投下」 パッ、銀色のトングがカパンと開いて挟んでいたオレンジ色の物体を真下へと投下した。 「ニンジンきらーい、ミサカバリヤーってミサカはミサカは鉄壁防御を敷いてみる」 飛来するオレンジ色の物体を左手に持った別の取り皿で防御するちびっ子。 にんまりとした笑顔で彼を下から見上げる。 「はっはっは、片腹痛いなぁ、もうお終いかなー、とミサカはミサカはアナタに勝利間近」 ぺし☆、銀色のトングが[打ち止め](ラストオーダー)の持つ取り皿の軽くはたいた。 「あ!?」 かくしてニンジンは重力に従って本来の到達予定地点へと到達を果たす。 したり顔の少年とわなわなと肩を震わせる幼女の視線が再び交錯し激しい火花を散らした。 数瞬の後、何度目かのニンジン戦争が勃発したのは言うまでも無い。 「だから行儀悪いわよ二人とも……」 どちゃあ、飛び交うニンジンと吹き飛ぶお皿の中、芳川桔梗が呆れた顔をして口を開いた。 「一方通行(アクセラレーター)、[打ち止め](ラストオーダー)、食べ物で遊ばないの。 ……はぁ、聞いてないわね」 二人の戦いはまったくの互角で双方ともに士気旺盛、これは長くなりそうだ。 ようやく諦めた芳川はしばらくその戦いを見て「やれやれ」と肩を竦めると食後のコーヒーを口に運んだ。 [12月23日―AM7 40]
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/176.html
[2] Accelerator01―芳川桔梗の優雅な朝食 バターが塗られたこんがりトースト、ちょっと半熟な目玉焼きとカリカリのベーコン、そしてニンジンとレタスのサラダ。 割とありふれた洋食風の朝食の風景。 学園都市の教員用4LDKのマンションの一室の空気を和やかにさせる仄かに香る引き立てのコーヒーの 香りが優雅なブレックファーストを楽しむ―いや楽しみたい芳川桔梗の鼻腔をくすぐる。 「愛穂にしてはいい豆ね、貴方達もコーヒーでも飲んで一旦ソレ止めない?」 目の前のテーブルで広がる小規模戦闘を少し開けた目でちらりと覗き、当事者2名に提案する。 『やなこった』 当事者二名は芳川の好意的な提案を即座に却下した。 芳川はその返答を半ば予想していたので「あっそう」とだけ言うと求人情報が載っている雑誌に視線を移し パラパラとめくるがやはりなかなか良い条件の就職は無い。 ひょい、ひょい、ひょい、ひょい。 器用に動かされる幼女の手に握られた二本の箸が高速でニンジンを隣の皿へと運ぶ。 隣とはつまり芳川の皿の事だ。 (この子達は本当に……) いまだに徹底抗戦を続ける意思満々な目の前の二人はこの教員用4LDKの主である黄泉川愛穂の居候と化している。 「ヲイ、このクソガキ」 「ヘヘヘヘ、とミサカはミサカは不敵に笑ってみたり」 芳川桔梗は黄泉川愛穂とは結構長い仲である。 親友、そう呼んでも構わないと、少なくとも芳川はそう思っている。 彼女は普段から竹を割ったような性格をしているし何より面倒見が良い。 [一方通行](アクセラレーター)と[打ち止め](ラストオーダー)の学園都市屈指の問題児2名をもその異様なまでの 面倒見スキルを発揮し快く受け入れてしまった。 芳川はついでである。 1本でもにんじん、2本でも……。 とにかく芳川の前に置かれた皿はこんもりと盛られたオレンジ色の物体が占領していた。 [打ち止め](ラストオーダー)が自分の皿から芳川の皿へと移してるためだ。 黄泉川愛穂はなんでも今日が自分の勤める学校の終業式とかで朝早くから出かけてしまっているので今朝は3人しか居ない。 せわしなく動かされる幼女―[打ち止め](ラストオーダー)のオレンジ色の箸を少年の青い箸が迎撃し空中で「ガシィ」と交差する。 虚空をニンジンが舞う。 真っ白なテーブルクロスの上に落下したニンジンを芳川はひょいと指でつまんで自分の口へと運ぶ。 世の中には3秒ルールと言うものがあるのだ、だからこれはまだセーフ。 「ニンジン、おいしいわよ」 ちなみにこの朝食を作成したのは芳川でも黄泉川でも無く、食卓で暴れる2人のうちの一人の少年だ。 その少年を目だけ動かして見てみる。 どこか中性的な顔をした少年。 色素が抜けたかのような真っ白な髪の毛、白髪とはまた違っていた。 どちらかといえば銀髪に近いかもしれないが、肝心の少年自身が髪の手入れなどあまりしていないのかボサボサ感がある。 きっとキチンと手入れすればそれこそ輝くようなキューティクルが手に入るだろう。 (本人はやる気無さそうだけどね――) そして次に特徴的なのは鋭い眼光を放つ目、まるで猛禽類のような残忍な光を讃えてるのが普通なのだが、いまはどっちかといえばウサギといったほうがピンと来る。 ちなみに少年の目が赤いのはニンジンの食べすぎでは無いとだけ言っておく。 少年の持つ超能力の影響というか副作用が原因なのだがその眼球は、鮮やかな深赤の色合いをしている。 好意的に表現するならガーネットあたりの宝石のように見えなくも無い。 だがそれよりは血の色、と言ったほうがしっくりは来る。 (まぁ最近は大分丸くなってるみたい) 少年は[一方通行](アクセラレーター)と呼ばれるこの学園都市で最強の超能力者(レベル5)、ある事件によって脳に傷害を負っているが 相方と化している10歳ぐらいの幼女の補助によりその昨日を補っている。 彼の首に装着されたチョーカーのような装置がそれだ。 [冥土返し]の医者曰く―演算補助デバイスというらしいが見た目にはチョーカーとポータブルプレイヤーにしか見えない。 今の彼は青いチェック柄のエプロンをつけ頭にも同色のバンダナが巻かれている。 おさんどんスタイルというやつだ。 意外にも結構似合っているので余計におかしい。 「ム、ムムム、お願いだから箸をどけて欲しいかも、とミサカはミサカは悲痛な願いを口にしてみる」 「断るッ」 激しい鍔迫り合いで両者の間に火花が飛び交い、ギギギギギギ、と交差した箸と箸が耳障りな音を立てる。 「行儀、わるいわよ、二人とも」 一応年長者の務めとばかりに注意しても 「ニンジンだけより分けるんじャネェよ、ニンジン食え、ニンジン。 カリカリと生のままかじッてろ!」 「だが断る、とミサカはミサカは奇妙な冒険が好きな某人気漫画家の先生の真似とかしてみたりする」 わんぱくすぎる二人は聞こうともしない。 諦め気味にTVのリモコンを操作して朝のニュースを映すと若い男のニュースキャスターが 最近学園都市で起こっている事件の事を報道していた。 「失踪事件ねぇ……」 先月の終盤あたりにまず一件、そして今月の初めに一件。 1週間ぐらい前に一件、どれも突然何も告げずに姿を消してしまうのだ、 普通ならそのまま行方不明になるのだが、この事件の被害者は何故か数日後にひょっこりと街を歩いてるところを発見されたりしている。 ただ、いままでどこに居たのかはまるで覚えておらず、軽い記憶障害を起こしている事と被害者が全て女子というのが共通点だ。 特に暴行された形跡も無く大した事件にはなってないがそれでも連続して起こればそれなりに報道機関の目を集めるのだろう。 丁度テレビには被害者の女の子の友人のコメントなどが流れていた。 『ええ、どこに居たのかとか聞いても、そう……とか、わかった……とか気力の無い言葉ばかり返ってくるんです』 『戻ってきてからボーっとしてる事が多くなった気がする』 どれもありきたりなコメントばかりで目を挽く物は無い。 芳川は嘆息するとリモコンを操作して別の番組へとチャンネルを変えた。 さて一方通行の猛攻をひらりとかわす幼女はといえば、そのオレンジがかった髪の毛を揺らし、彼をおちょくりまくっている。 見た目10歳児の幼女、彼女は御坂美琴と同一のDNAマップを元にして作成された[妹達]が形成する 擬似ネットワーク[ミサカネットワーク] それを束ねる上位個体だ。 個体名は[打ち止め](ラストオーダー)、20001人目の[妹達]でもある。 あどけない顔を今は「ぷくー」と膨らまして一方通行に対して「ニンジンいらないよ」などとどこかの士官学校の パイロットのような台詞を吐いている。 あまり品の良くない笑みを浮かべた一方通行が銀色のトングを使ってたっぷりとオレンジ色の物体を彼女の皿へと盛り付ける。 どうやら相方のガキンチョ様も一歩も譲る気は無いようで懲りずに芳川の皿へとニンジンを転送する。 「このクソガキが。 お子様はニンジン食べてすくすく育ちやがれ」 右手でオレンジの箸と銀色のトングでドッグファイトを繰り広げながら、一方通行は左手に持った2本目のトングで 芳川の皿にこんもりと乗ったニンジンをガシッ!と掴むと、 「四の五の言わずに食えッ!食いまくれッ!そして寝ろッ!!」 オレンジ色の物体を銀色のトングから射出した。 「がーんっ! ニンジンいらないって言ったのにッ! アナタの目が赤いのはきっとニンジンの食べすぎが原因 に決定、とミサカはミサカは新たな新事実をミサカネットワークに流出してみたりする!がしがし」 幼女がせっせと寄り分ける先からどんどんニンジンが追加されていく。 一方通行→[打ち止め](ラストオーダー)→芳川→一方通行といった図式の綺麗な円運動が出来ているようだ。 完全循環、そんな言葉が芳川の脳裏を掠めた。 「入れすぎじゃないの?それ」 うっすら涙目になりつつある[打ち止め](ラストオーダー)を見かねて少しだけ助け舟を出してやることにした。 [打ち止め](ラストオーダー)の皿はもはやオレンジ以外の色を探すほうが困難なぐらいオレンジ色に染まっている。 「はッ、お子様にはこれぐらいカロチンを摂取させたほうがいいンだよッ」 彼は青いエプロン姿で胸を張って正当性を主張している。 「ブーブーッ、ってミサカはミサカは横暴な貴方に断然抗議してみたりする」 「やかましい、クソガキが一丁前に好き嫌いすンじャネェよ」 もはやニンジンしか見えないくらいに山盛りのニンジンサラダをせっせと別の皿へとより分ける[打ち止め](ラストオーダー)。 なんていうか……健気だ。 程なくして[打ち止め](ラストオーダー)のサラダの皿から綺麗にオレンジ色が消えうせた。 消えうせた分のオレンジはそっくりそのまま芳川の皿へ。 その様子を腕を体の前で組んで見守っていた一方通行の腕がゆらりと解かれ、その赤い瞳が猛禽類の光を宿す。 獲物を狙う鷹の目、口元は残忍な形にゆがんでいる。 なんでこの子はこんな表情ばっかり上手いのだろうか……。 「やめときなさいよ……」 芳川の忠告などお構いなしだ。 彼は躊躇する仕草すら見せない。 代わりに「なにを言ッてるンだァ?」とでも言いたそうな顔をこちらへ向けてくる。 とりあえず芳川は右手を横にひらひらと振って「もういい」と意思表示する。 ともかく、一方通行の手が動いた。残像すら残るぐらい高速で右手に持った銀色のトングが閃く、そして、 「待ッていたンだよッ、この時をなァ!」 芝居掛かった動きで一閃、トングは芳川の皿により分けられたオレンジ色の物体を根こそぎ掻っ攫い頭上高く掲げあげる。 「はぅ!? そ、それで何をする気なの……びくびく、とミサカはミサカは邪悪な真性Sな貴方を見ながら恐怖で怯えてみたり」 一方通行はゆっくりと[打ち止め](ラストオーダー)の皿の上に移動して停止した。 まるで原作3巻のラストバトルのワンシーンようだ。 今回集めたのはニンジンだけど。 [打ち止め](ラストオーダー)を見下ろす彼の目は悪ガキの目になっていて、心なしかなんだか楽しそうにも見える。 「投下」 パッ、銀色のトングがカパンと開いて挟んでいたオレンジ色の物体を真下へと投下した。 「ニンジンきらーい、ミサカバリヤーってミサカはミサカは鉄壁防御を敷いてみる」 飛来するオレンジ色の物体を左手に持った別の取り皿で防御するちびっ子。 にんまりとした笑顔で彼を下から見上げる。 「はっはっは、片腹痛いなぁ、もうお終いかなー、とミサカはミサカはアナタに勝利間近」 ぺし☆、銀色のトングが[打ち止め](ラストオーダー)の持つ取り皿の軽くはたいた。 「あ!?」 かくしてニンジンは重力に従って本来の到達予定地点へと到達を果たす。 したり顔の少年とわなわなと肩を震わせる幼女の視線が再び交錯し激しい火花を散らした。 数瞬の後、何度目かのニンジン戦争が勃発したのは言うまでも無い。 「だから行儀悪いわよ二人とも……」 どちゃあ、飛び交うニンジンと吹き飛ぶお皿の中、芳川桔梗が呆れた顔をして口を開いた。 「一方通行(アクセラレーター)、[打ち止め](ラストオーダー)、食べ物で遊ばないの。 ……はぁ、聞いてないわね」 二人の戦いはまったくの互角で双方ともに士気旺盛、これは長くなりそうだ。 ようやく諦めた芳川はしばらくその戦いを見て「やれやれ」と肩を竦めると食後のコーヒーを口に運んだ。 [12月23日―AM7 40]
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/3788.html
【種別】 人名 【初出】 アニメ とある科学の一方通行 第1話 【CV】 内匠 靖明 【解説】 『警備員』に所属する男性。 アニメ1話で黄泉川愛穂と共に、鷹田ら三人をカエル顔の医者の病院で迎え撃った。 続く2話でも登場。 一方通行と『DA』による戦闘の後始末に加わった。 その際遺体から人皮挟美のデータを調べ、一方通行に伝えている。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2802.html
とある科学の執行部員 改訂版 はこちら。 第1章(3)結果として上条は無事にイギリス清教の『お客様』を取り押さえることに成功していた。『お客様』の名前はシェリー=クロムウェル。学園都市で犯行に至った理由は十字教内でのイギリス清教の立場を改善するため。科学と魔術が対立する世相の中で未だに学園都市とパイプがあるイギリス清教の立場は十字教三大勢力の中でもかなり弱いものになってるらしい。だから今回の件をきっかけに二つの組織のパイプを完全に破壊することが目的だった。猟犬部隊の援護もあり、上条は何とか無傷で美琴のもとに帰還するのだった。「当麻!!」上条の無事な姿を見て、美琴は上条のもとに駆け寄ってくる。そのまま上条は美琴のことを抱きしめるのだった。黄泉川も上条が無事な様子で安心しているようだった。「本当は詳しい話を聞きたいところだけど、 今日のところは彼女に免じて勘弁してやるじゃんよ」黄泉川は笑顔でそう言った。上条もそのことについてはある程度覚悟していた。今までは秘密裏に魔術師を撃退してきた『執行部』だったが、今回表立って動いたことで次第に外部に能力者がいるという噂も広がっていくだろう。「今日は俺が報告書を書いといてやるから、嬢ちゃんと一緒に楽しんでくるんだな」木原に後押しされ美琴と共に去った上条を見送りながら、黄泉川は木原に言った。「ウチの学校のガキを守ってくれて感謝するじゃんよ。 アンタ達がテロリストを鎮圧してくれたじゃん?」「俺達が?、馬鹿言ってるんじゃねぇよ。 あの糞女を倒したのは殆ど上条が一人でやったよぉなもんだ」「なっ、でも数十人の武装した警備員が全然敵わなかったじゃんよ。 どうやってそんな敵を相手に一人で戦うじゃん?」「…アイツは『執行部』の人間になるべく育てられた。 アンタにはその意味が分からねぇだろぉが、 アイツが今いる場所に立つためには、それなりのもんを抱えてるってことさ」「正直、学校ではただ馬鹿やってるガキにしか見えないじゃんよ」「それは、アイツがまだそうやって馬鹿をしていられる余裕があるってことだ。 そしてガキにそんな余裕を作ってやるのが大人ってもんだと俺は思ってるんだがな」木原の言葉に共感するものを覚えた黄泉川は去っていく上条たちの背中に目をやる。「その通りじゃん、ガキを守ってやるのが大人の役目じゃんよ」そして黄泉川は同僚に指示を出し、後片付けへと追われるのだった。 「これなんてどうだ?」上条と美琴は第一五学区にあるアクセサリーショップに来ていた。上条が今日の埋め合わせに何かプレゼントすると美琴に提案したのだ。「確かに可愛いんだけど、値段が結構するよ」二人が選んでいるのはペアネックレスだ。初めは美琴はペアリングがいいと主張したが、常盤台はアクセサリーなどの装飾品の着用が禁止されている。上条はどうせなら普段からいつも着けていられるものが良いと提案し、制服の下に着けられるネックレスに決めたのだった。上条が選んだのは二つ合わせるとハート型になるというシンプルなものだった。しかしシンプル故の可愛らしさがあり、実を言うと美琴も見た瞬間からこれがいいと思っていた。しかし思った以上の値段の高さに諦めていたのだ。「美琴さん、こういう時に値段の心配をするのは野暮ってもんですよ。 せっかくの初めてのプレゼントだからな、 上条さんとしても思い出に残るものにしたいわけで…」「本当にいいの?」「もちろんだ」上条は店員を呼ぶとプレゼント用に包むよう頼んだが、美琴がその場で着けていきたいと言ったので、包んでもらうことはせずに店内で上条と美琴はネックレスを首から掛けていた。嬉しそうに制服の上からネックレスを撫でている美琴を見ると上条も幸せな気持ちになるのだった。その後は第六学区にある遊園地に行って遊び通すと、一日はあっという間に過ぎ去ってしまった。やがて常盤台の門限近くになり上条は美琴を寮まで送っていくと言ったが、美琴は首を縦に振らなかった。「まだ大事な話をしてもらってない」上条としては上手く誤魔化せた気でいたのだが、そう上手くいかなかったようだ。誤魔化そうとした上条に激昂する美琴を宥めながら、仕方がないので上条は美琴と共に部屋へと向かうのだった。 「それじゃあ説明して、外部の能力者についても『執行部』についても全部!!」語気を強めながらも何処か不安そうな美琴を前にして上条は溜息を吐く。いずれ外部の能力者については自然と話が広まるだろうからまだしも、『執行部』について話すのは気が引けた。自分がしていることを知ったら美琴は必ず首を突っ込んでくるに違いない。しかし例え話さなくても自分を追って危険に足を踏み入れてくる可能性もある。上条はそのことについてジレンマに陥っていた。「なあ、美琴。 話を聞いても、絶対に首を突っ込まないって約束できるか?」「そんなの出来るわけないじゃない。 当麻が危険なことに足を踏み込んでるのに見過ごすなんてありえないわ」「…」知らず知らずの内に美琴に首を突っ込まれるよりは、常に美琴を近くに置いて守れる方が安全かもしれない。それに魔術師の学園都市への侵入が盛んになってきている今、美琴が上条の知らないところで魔術師と遭遇する可能性がないわけではない。その時に対処法の知識があるに越したことはなかった。そして上条はある決断をする。それは上条の根本を覆す苦渋の決断だった。・・・「…カミやん、超電磁砲の『執行部』への配属が正式に決定されたぜよ」「…そうか」「カミやん…」「笑いたきゃ、笑えよ。 あれだけの啖呵を切っておきながら、 俺は大事な人を危険に巻き込もうっていうんだから」「…笑わないぜよ。 カミやんの決断は間違ってないと思うにゃー。 舞夏と超電磁砲は同じってカミやんは言ってたけど、決定的に違う点がある。 超電磁砲は戦う力があって、 それをカミやんのために使いたいと思ってるんだにゃー」「いくら美琴の強い力があったって、普通の女の子に変わりはないんだ」「だから必要以上に首を突っ込まないように、 敢えて『執行部』に入れ、後方支援に徹させるつもりなんだろ? 超電磁砲の性格を考えれば、それ以上ベストな選択はないはずにゃー」「…もしもの時は美琴を頼む」「…同じ『グループ』のメンバーとして任せるぜよ」そして『グループ』に三人目のメンバーが生まれた。リーダーであり直接魔術師との戦闘を担当する上条。上条をサポートする魔術師でありながら魔術が使えない土御門。新たに『グループ』に加わった美琴。そして最後の一人が『グループ』に加わるのはもう少し後のことなのだった。
https://w.atwiki.jp/koufarailway/pages/22.html
基本情報 駅数 20 車両数 - 種別 特急、急行、新快速、快速、ムーンライト南京、普通 路線状況 南京~南帝 西帝京~西京 複線電化 南帝~西帝京 複々線電化 路線アルファベット K 各駅情報 南京 北南京 高砂 京川 南帝 北南帝 南高坂 高坂 南帝京 帝京 帝京団地 東常盤台 常盤台 西常盤台 汐御橋 黄泉川 二春 木山 北西京 西京 廃駅 てじみ野 車両情報
https://w.atwiki.jp/meteor089/pages/23.html
億泰「学園都市つってもよォ~」 ① ② ③ 前へ 戻る 次へ 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/06(水) 18 36 06.19 ID eM880pzN0 [2/41] 総人口約230万を誇る超巨大都市。 最先端の科学技術、独自に運営されている行政・立法・司法はもはや国家と言っても間違いではない。 そして…学園都市にはそれとは別に隠している側面があった。 それは『超能力』を開発している機関だということ。 その事実を知った『とある』財団は、事態を重要視。 幹部による会議を重ねるうち、財団の重要幹部である一人の学者がひとつの解決策を提示した。 それは…学園都市に学生を一人送り込み、どこまでが真実なのか確かめてもらうという単純でありながらも効果的な妙手。 かくして、その学者がもつ独自の交友関係から選ばれた一人の男が学園都市に訪れる。 到着早々巻き込まれた爆弾事件に首を突っ込み、爆発寸前の爆弾を『削りとり』、そのまま犯人を一蹴。 駆けつけてきたジャッジメントにその場を任せ夜の闇に消えていった謎の男。 学園都市にあらわれたその男の名は虹村億泰といった… 前 億泰「学園都市…っスかァ?」 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/06(水) 18 37 27.47 ID eM880pzN0 ■学園都市・風紀委員第一七七支部 空調が適度に効いたジャッジメント支部。 静かな空間に響くカタカタという小気味良いタイピングの音。 しかし、やがてキーボードを弾く音はまばらになり…そのうちピタリと静かになった。 黒子「うむむむむ~」 同時に聞こえる唸り声 その声の主は白井黒子だった。 そんな黒子の後ろからほんわかとした声がかかる。 初春「どうしたんですか白井さん? あれー? それって?」 黒子「えぇ。 例のグラビトン事件の報告書を作成してるんですの」 初春「あぁー…あれはビックリしましたー。 でもさすが白井さんですよねー いつの間に犯人を突き止めたんですかぁー?」 黒子「…」 初春「それに私達、御坂さんもにも助けてもらっちゃって… やっぱりレベル5って凄いんだなぁ~…」 黒子(…違いますわ) ホワホワと呟く初春を見ながら白井黒子が心中で呟く。 連続虚空爆破事件、通称グラビトン。 先日、セブンスミストの爆破『未遂』事件を引き起こした犯人である介旅初矢は白井黒子によって確保された。 だが実は幾つもの疑問が残っていた。 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/06(水) 18 39 25.02 ID eM880pzN0 ■学園都市・路上(セブンスミスト爆破『未遂』事件・翌日) 黒子「おっねえっさまぁー!」 ビヨーンと飛びかかる黒子を慣れた手つきで弾いたのは学園都市第3位、『超電磁砲』の異名をもつ超能力者、御坂美琴。 御坂「あいっかわらず元気ねー」 黒子「それはもう! お姉様への愛の前にはマグマだろうと氷河だろうと障害には蹴散らしてみせますわぁ!」 しゃにむに頬をスリつけようとしてくる白井黒子をあしらいながら苦笑いを浮かべる御坂。 御坂「ね、ちょっと聞きたいんだけどさ… 昨日の連続爆破事件…あれってちゃんと解決したのかな?」 黒子「あら? あらあらあらぁ? 嫌ですわお姉様ー! 爆破事件を事前に食い止めたお姉様こそが一番の功労者に決まってるじゃありませんの!」 御坂「…違うの」 黒子「またまた~ お姉様に謙遜なんて似合いませんのよー」 御坂「…ホントに違うのよ黒子」 御坂の声のトーンから真剣に聞かれているということに気付き、ようやく佇まいを整える黒子。 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/06(水) 18 40 44.80 ID eM880pzN0 黒子「ゴホン……どういうことですの?」 御坂「あのとき…私のレールガンは間に合わなかった」 黒子「えっ?」 御坂「考えてみてよ? そもそも私がレールガンを撃ってたら、セブンスミストの壁の一枚二枚は楽に吹き飛んでるはずでしょ?」 黒子「そういえば…そうですわね… でもだとしたら誰が?」 御坂「…判んない。 私は最初…『アイツ』だと思った」 御坂「でも…違うのかもしれない」 黒子「?」 御坂「ねぇ黒子? セブンスミストの被害は?」 黒子「被害? 何を仰いますの? 爆破『未遂』事件ですのよ?」 御坂「うん…そう。 そうよね…」 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/06(水) 18 42 49.84 ID eM880pzN0 黒子「お姉様…いったい何を悩んでらっしゃるのです? わたくし、相談に乗りますわよ?」 御坂「…ねぇ黒子。 例えば…例えばよ? 超能力を強制的にゼロに戻す能力があるとするじゃない?」 黒子「はい? …いきなり何を?」 御坂「いいから聞いて。 それでさ、私って磁力で砂鉄のブレードつくれるんだけど…その磁力をゼロに戻したらどうなると思う?」 黒子「えーと…磁力で砂鉄を操ってるのですから…ただの砂鉄に戻る?」 御坂「うん。 そのとおり。 能力がキャンセルされれば、元の形に戻っちゃう。 ま、当然の話よね」 黒子「…お姉様? わたくしさっぱり話が見えないのですけれども…」 御坂「あの時…重力子の加速が確認されたって言ってたわよね?」 黒子「え? えぇそうですわ。 グラビトン事件は重力子の数ではなく速度の加速による爆発させる能力によるものですから」 御坂「…だけど爆破は『未遂』だった」 黒子「もうお姉様ぁ~ そろそろイジワルはやめて欲しいですのよ? いったい何を仰りたいのです?」 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/06(水) 18 45 31.29 ID eM880pzN0 御坂「ねぇ…爆弾の本体って『どこ』にいったのかな?」 黒子「…え?」 御坂「私だけじゃない。 初春さんも佐天さんも見てたはずなの。 ゲコ太の偽物みたいなぬいぐるみが潰れて小さくなっていくのを」 御坂「だけど爆弾は爆発しなかった。 おかしいと思わない?」 御坂「肝心の爆弾は『どこ』へ消えたの?」 黒子「……あっ!」 御坂「もし…もしもよ? 『アイツ』が爆弾が爆発する前に強制的にゼロに戻せたとしても…それでも爆弾は消えてなくなったりはしないはず」 黒子「…確かにそうですわね。 爆弾が爆発していないのならばそれは不発弾。 ならば現場に残っているはずですわ」 御坂「でも…現場には何も残ってはいなかった。 まるでこの世界から『消えた』みたいに」 黒子「…」 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/06(水) 18 48 32.04 ID eM880pzN0 黒子「言われてみると…不審な点が浮かび上がってきますわね…」 御坂「でしょ? だからさ…私聞いてみたのよ」ギリッ 突如、歯噛みをする御坂。 静電気で髪が逆立つのを感じ、ギョッとする黒子。 黒子「…お、お姉様?」 御坂「わざわざ…わざわざアイツを待ち伏せしてさ。 このあたしがよ!?」ギリギリ 黒子「お姉様? お、お気を確かに…」 御坂「そしたらさぁ…! あんのツンツン頭…問いただしてもはぐらかすばっかだし…」ビリッ 御坂「なぁーにが『誰が助けたかなんて関係ないだろ』よっ! 『みんなが無事でよかったよなぁ』よっ!」ビリィッ! 黒子「おねえさま…? 電気…漏れてますわよ?」 御坂「あーもー! ムッカつくー!!!」ビリビリィ! 黒子「おっおねえええっさまあああ! 電気が漏れて痺れてシビシビですのぉぉ!」 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 18 52 40.31 ID eM880pzN0 ■学園都市・風紀委員第一七七支部 初春「…‥さん? 白井…ん? 白井さん?」 黒子「ハッ! いけないいけない! 思わずお姉様がくださった稲妻のような愛の衝撃に思わずトリップしてましたわ!」 初春「アハハ…それってきっと稲妻ですよー? そうだ! コーヒーでも淹れますかー? 頭スッキリするかもですよー?」 黒子「ええ…確かにリフレッシュしたいですわねー。 お願いしてもいいですの?」 初春「はーい ちょっと待っててくださいねー」 コーヒーメーカーに向かう初春の後ろ姿をぼんやりと見つめながら黒子はさらに思索にふける。 黒子(それにもう一つ…あの怪しげな殿方も問題ですわね) 黒子(あの殿方がどうやって犯人を特定したかは置いておくとして…能力の見当がまるでつかないですの) 黒子(犯人の指を瞬時に潰したのはテレキネシスでなんとか説明は可能ですけども…) 黒子(瞬時に私と爆弾の間に入り込んだことはさっぱりですわ) 黒子(挙句にこっちが犯人を拘束しているうちに逃がしてしまいますし…今度会ったらキッチリ取っ捕まえてやるですの!) 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 18 56 37.73 ID eM880pzN0 初春「コーヒーできましたよー て、どうしたんですかー? そんなにオデコにシワを寄せてたらおばあちゃんになっちゃいますよー?」 黒子「…初春ぅー?」 初春「はいー?」 黒子「だ れ が バ バ ア 声 で す っ て ー?」 初春「えええ!…そんなこと言ってないですよー」 黒子「いーえ! 言ってましたわ! 心の声が届きましたもの!」 初春「あうあう…やめれくらさいー」 ムニムニと初春のほっぺたを引っ張る黒子。 と、その時シュカンッ!と音を立ててロックのかかっていた筈の扉が開いた。 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 18 57 38.79 ID eM880pzN0 御坂「おっすー!」 ビシリと腕をあげながら入ってきたのは、御坂美琴。 黒子「お姉様ぁ~ 能力でセキュリティ解除するのはよしてくださいなって言ってるじゃないですの」 御坂「いやーメンゴメンゴ! でもほら、私もさーちょっとはこの事件に関わったことだしー」 黒子「それはそれ、これはこれですの…ってまた今日は随分とご機嫌ですのね?」 御坂「んー? まぁ昨日はあのあと一晩中アイツと追いかけっこしたからかなー? ストレス解消になったのかも」 ヘヘヘッと笑う御坂の後ろから、ピョコンともう一つの顔が飛び出てきた。 それを見た初春が驚いたような声をあげる。 初春「あー! 佐天さんじゃないですか!」 佐天「やっほ! 偶然そこで御坂さんにあっちゃってさー」 ヒラヒラと手を振りながら空いている椅子に腰掛ける佐天。 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 18 59 41.61 ID eM880pzN0 佐天「まっ。 今日は暇だし? どうせなら初春の仕事っぷりを監視してやろうと思ってねー」 フッフッフッと笑いながら手をワキワキと動かす佐天。 初春「そっ、その手はなんですー!?」 佐天「気にしない気にしないー …隙ありぃ!」 初春「やっぱりめくるんじゃないですか! やっぱりめくるんじゃないですかぁぁ」 黒子「むむむ…お姉様! 見せつけられて黙ってるわけにもいきませんわ! いざワタクシとめくるめく愛の世界へ!」 御坂「あ・ん・た・は! いい加減懲りろー!」ビリビリィ キャイキャイと仲睦まじくはしゃぎだす少女達。 初春「もう! 佐天さん! わたしおこっちゃいますよー?」 僅か数分でスカートを7回めくられた初春がプンプンとほっぺたを膨らませる。 ちなみにその時黒子は御坂に低電圧の電流をしこたまたっぷりと流され部屋の隅で悶絶していた。 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 19 03 58.83 ID eM880pzN0 佐天「ムフフ~ ほっぺた膨らませた初春も可愛いなぁ~」 初春「いいんですかー? 言っちゃいますよー?」 佐天「ほほう…何を言うつもりかなぁー初春は? 今日のあたしのパンツの柄なら今見せてあげよっか?」 初春「ち、ちちち違います! 佐天さんがお色気ポーズを披露したときのことですぅ!」 佐天「なっ!?」 黒子「お色気?」 御坂「披露?」 初春の言葉にそれぞれピクリと反応する御坂と黒子。 そして佐天はといえばじんわりと頬が赤くなっていた。 脳裏に鮮明に映し出される数日前の記憶。 それはセブンスミストで初春達と洋服を見に行ったときのことだった。 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 19 08 33.80 ID eM880pzN0 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「うひゃあ! 見て見て初春ー! このビキニ、ギリギリすぎー!」~ 「え? あたし? あたしじゃあ似合い過ぎだよ~ なんてね♪」~ 「ん? 後ろ? 御坂さんでしょー? 女同士なら恥ずかしくないって! どーです御坂さーん? これ似合いますぅ?」 ウフ~ン♥という擬音が似合いそうなセクシーポーズのまま振り返った佐天の目の前にはポカンとした顔の大男 「…あ~。 そのよぉ~。 何ッつーかよぉ~……ちーっとばかしオメーには早えんじゃあねぇーかぁ~?」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ボフンと頭の上から白い湯気が出しながら顔を真っ赤に染める佐天涙子。 佐天「まっ待ってぇ! あれは無しっ! 無しの方向でぇぇっ!!!」 椅子の座面に顔をうずめて足をバタバタさせる。 御坂「うわあ…耳真っ赤だよ? 大丈夫?」 黒子「? いったいどういうことですの?」 初春「えーとですねー…実は…」 佐天「やぁぁぁめぇぇぇてぇぇぇ!!!」 初春「フッフッフッ…佐天さん、貸しひとつですよー?」 佐天「わかった! わかったから言わないでぇぇ!!」 腰に手をあて不敵にウフフと笑う初春飾利。 それは記念すべき対佐天涙子戦の初勝利でもあった。 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 19 14 21.24 ID eM880pzN0 佐天「うー…ヒドイ目にあった。 おのれ初春ぅ…」 初春「そんなぁ… それもこれも佐天さんがスカートめくらなければ済む話なんですってばぁ…」 ぼやく佐天に苦笑いをかえす初春。 その時、小さなブザー音が鳴った。 黒子「あらま、どなたかしら? 固法さんは今日は非番のはずですし…」 そう言いながらドアカメラのスイッチを押す黒子。 モニターの向こうには緑のジャージに身を包んだ女性が立っていた。 黄泉川「アンチスキルの黄泉川じゃん! 開けてほしいじゃーん!」 そう言ってドアカメラに向かい身分証を突きつける黄泉川。 黒子「アンチスキル? 緊急といった雰囲気でもないようですけど…ま、考えても仕方ないですわね」 そう納得しながら開錠のボタンを押す黒子。 プシューと独特の音をたてながらスライド式のドアが開いた。 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 19 18 13.69 ID eM880pzN0 黄泉川「やぁやぁ邪魔するじゃーん!」 ニコニコと笑いながら部屋に入ってくる黄泉川。 黒子「ごきげんよう…ですの。 ところでいったいアンチスキルの方がどんなご要件ですの?」 黄泉川「そう慌てることはないじゃん? ほらほらさっさと入ってくるじゃーん」 そう言ってドアの向こうに声をかける黄泉川。 感知式のドアが閉まりかけ…また開いた。 ?「ここちょっと4・2・0(シ・ツ・レイ)~ってなぁ~… ン?」 入ってきた人物を見て少女たちは一様に目を見開き、驚きの声をあげる。 初春「あっ!」 黒子「ああっ!」 御坂「あああっ!」 佐天「ああああっ!」 億泰「なっなんだァ~?」 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 19 24 41.06 ID eM880pzN0 黄泉川「…と、まぁこういう訳じゃん」 体育教師なのがもったいないほど要領よく概要を説明し終えた黄泉川が、パサリと束まれた書面を黒子に手渡して話を締めくくる。 あまりにも突飛なことを言われ、思考が追いつかないジャッジメントの少女たち。 やがて、おずおずと初春が黄泉川に質問をする。 初春「…え、えーっと。 つまり…あちらの…ニジムラオクヤスさんを私達ジャッジメントで監視するってことですか?」 黄泉川「んー。 そういうことでもないじゃん。 ただ厄介事に巻き込まれないよう気を配るだけでいいじゃん」 黒子「…理解に苦しみますわね」 ポツリと黒子が呟いた。 その目は黄泉川から手渡された書面を真剣に追っている。 黄泉川「疑問があるなら言ってみればいいじゃん? 答えられる範囲なら答えてみせるじゃーん」 ふざけた語尾に似付かわしくない瞳で黄泉川が黒子の問を待つ。 黒子「それでは…遠慮無く」 ゴホンと咳払いをする白井黒子。 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 19 35 46.83 ID eM880pzN0 黒子「わたくしたちジャッジメント、それにアンチスキルも結局は学園都市の治安維持機関にすぎませんわ」 黄泉川「そのとおりじゃん。 校内外へそれぞれ適時適切な場所に人員を配置した結果。 それが今のジャッジメントとアンチスキルじゃんよ」 黒子「そこですの…昨今の事情を鑑みるに、特定の個人にまで手を回す余裕はない筈ですわ」 初春「そう…ですよねー 最近能力を強化する薬が出回ってるだなんて噂も流れてますし…」 黄泉川「その疑問はもっともじゃん。 私もそこが気になって上司に問いただしてみたじゃんよ」 黒子「…そ、それで何と?」 食いついた黒子を焦らすかのように大袈裟なジェスチャーで肩をすくめる黄泉川。 黄泉川「一応は小隊長の私が取り付く島もなかったじゃん。 大きな声じゃ言えないけど…この命令系統は相当上位の人物が握ってると判断するのが妥当じゃん」 初春「アンチスキルの小隊長さんが取り付く島もないって…もしかして…」 黄泉川「…学園都市統括理事会。 場合によっちゃあ…」 そこまで言って口を濁す黄泉川。 彼女がなにを言いたいのかは、それで察しがつく黒子と初春。 黒子「……あちらの殿方が? 悪い冗談っていう訳じゃあ…ないんですわよね?」 そう言ってチラリと流した視線の先には虹村億泰と佐天涙子がいた。 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 19 44 08.36 ID eM880pzN0 億泰「…オイ…なぁーにジロジロ見てんだぁ~?」 佐天「はぁ? なに言ってんの!? 見てんのはあんたでしょ!」 億泰「テメェー…人が年下だと思って優しく接してやったら調子のりやがってんなぁ~?」 佐天「ハァ~ッ? あれで優しく接したなら今頃あたしは女神さまだっての!」 億泰「ンだとぉ~このガキィッ!」 佐天「な、なによっ! チョコチップのアイス舐めるヤンキーが凄んだって怖くもなんともないっての!」 億泰「ア、アイス舐めながら登校すんのはよぉ~ オレの月曜の唯一の心のなぐさめなんだから馬鹿にすんじゃあねぇ~!」 佐天「だからってピンポイントであたしの大好物もってくなんて嫌がらせじゃない!」 億泰「ンなこたぁオレが知るわきゃねーだろぉーがよぉ~!」 ギャーギャーと子供の喧嘩のようなレベルの低い口論をする億泰と佐天を横目で見て問う黒子。 黒子「……『アレ』が?」 黄泉川「……『アレ』じゃん」 神妙な顔で問いかけてきた黒子にコクリと頷く黄泉川。 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 19 51 08.14 ID eM880pzN0 呆れた顔をする黒子の後方、壁に寄りかかったまま鋭い目で億泰を見ていた御坂美琴が口を開いた。 御坂「…ねぇアンタ」 冷たい口調にピシリと空気が凍る。 黒子「お、お姉様?」 御坂「黒子は黙ってて」 ゴングがなれば即座に戦闘態勢に移行しそうな空気の中、美琴が告げる。 御坂「私の顔…覚えてるわよね…?」 ゴクリと誰かが唾を飲み込む音が静まり返った部屋に響く。 佐天と口喧嘩をしたままの態勢から、首だけを動かして億泰が美琴を見つめ…そしてこう言った。 億泰「あぁ? あぁ~…オマエは確か…上条と『イチャイチャ』してたやつだよなぁ~?」 それは御坂美琴限定に多大な効果がある、とんでもない爆弾発言だった。 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 20 02 17.64 ID eM880pzN0 御坂「…へ? え? イチャ…イチャ?」 黒子「まっ! まさかっ!? おねえさまぁに限ってそんなことはっ!?」 ゆでダコのように顔を真赤にした御坂美琴がブンブンと腕を振り回す。 その腕はショックのあまりフラフラと美琴の胸に飛び込もうとする黒子を自動的にペチポコと迎撃していた。 御坂「な、ななななに言ってんの!? わっ! わたしがいつあ、あのド馬鹿と…イ、イチャイチャしたって!?」 億泰「いつもなにもよぉ~ あのデパートで夫婦みてーに話してたじゃあねえかよぉ~?」 まるっきり空気を読まない億泰の一言。 それは、さきほどの一撃よりも効果のある凄まじい威力のある一言だった。 黒子「きっ聞こえませんのっ! 今の黒子は置物! そう聞か猿ですのぉぉ!!」 御坂「ふっ! ふーふ!? ふーふっ!? 私が? アイツと!?」 アワワワワーと耳を両手で叩きながら現実逃避する黒子。 そして笑っているのか泣いているのか判らない顔でプルプル震える美琴。 そんな二人に至極真面目な顔でトドメの一撃。 億泰「まぁ~上条が尻に敷かれてたっつーのが正しいのかもしんねえけどなぁ~」 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 20 15 25.24 ID eM880pzN0 御坂「まさっ…まさくぁっ…」 億泰「まさくぁ? オメー…クワガタ好きとか言うんじゃあねぇーだろうなぁ~?」 御坂「まっ…まっさかあ!この私がう、うれ嬉しいわけないじゃんきっとこれはなんか病気!そう持病の癪なんだわきっとアハハハハハハ!!!!」 プルプルと身体を震わせながら支離滅裂な呟きをもらす御坂美琴。 佐天「あ、あの…御坂さん? 首筋まで真っ赤ですけど…ダイジョブですか?」 佐天に声をかけられ、きしむような音をたてながらゆっくりと首を動かす美琴。 その顔は真っ赤に染まり、目じりにはうっすらと涙をため、そして口元には隠しきれないニヤケが浮かぶという奇天烈な顔だった。 御坂「ごっごめんっ! わっわたしっ!!! 今日先帰るっ!」 それはまさに電光石火。 言葉よりも先に鞄をひっつかみ駆け出す御坂。 数秒後、かけ出した勢いを物語るかのように事務椅子の座面がクルクルと惰性で廻っている。 呆気にとられ、その椅子を眺めることしかできない億泰達。 そんな空気を最初に破るかのように立ち上がったのは緑のジャージ姿だった。 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 20 19 33.26 ID eM880pzN0 黄泉川「さーてとぉ! 私もそろそろ仕事の時間じゃんよ そういう訳で後は任せたじゃん!」 もはやここにとどまる意味はなしと言わんばかりにさっさとドアに向かっていく黄泉川だったが、億泰に声をかけられ立ち止まる。 億泰「おっおいセンセェーよぉ~ オレァいったいどーすりゃいいんだぁ~?」 黄泉川「え~? さっき来るとき説明したじゃんかよ。 これから一日一回はここに顔出すようにすればいいじゃん」 黄泉川「正直、厄介ごとに首突っ込むかなんて本人次第で何ともいえないじゃんよ。 まぁ問題あったら連絡くれじゃん! すぐに駆けつけてやるじゃん」 その言葉を最後にヒラヒラと後ろ手を振りながら黄泉川が部屋を出て行く。 残されたのは黒子、初春、佐天、億泰の4人。 特に黒子を襲った衝撃は大きく、部屋の端っこで体育座りをしながら前後に揺れている有様だった。 なんともいえない気マズイ沈黙が部屋を包む。 初春「あっ、あのっ!」 そんな沈黙を最初に切り開いたのは初春飾利だった。 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 20 27 55.76 ID eM880pzN0 初春「…ニ、ニジムラサン?」 億泰「ん~?」 初春「コ…コーヒーでも飲みません…か?」 こわごわと億泰とのコンタクトを試みる初春だったが、その気遣いに返ってきたのは初春の想像を遥かに超えた軽い返事だった。 億泰「おっ! いいンかよ! あ、でもオレよぉ~ コーヒーよりは紅茶のほうがいいんだよなぁ~ ある? ミルクティー?」 初春「…えっ? あっ、はい! ミルクティーですね? ちょっーと待っててください」 億泰「んじゃぁー頼むわぁ~ あ、そうそう。 オレどっちかっていうと甘党だからよぉ~ 砂糖壺も一緒に持ってきてくれなぁ~」 初春「はっ、はーい!」 そう言ってパタパタとお茶の準備をしだす初春。 初春「えーとティーパックティーパックは確かこっちの棚で… 牛乳は…ムサシノ牛乳があって…」 せわしなく動き出した初春を横目で見ながらボソリと佐天が呟いた。 佐天「……アンタさー…ちょっとは遠慮しなさいよね…」 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 20 32 19.69 ID eM880pzN0 むくれた顔で億泰に悪態をつく佐天。 億泰「はぁ~? くれるっつーモンもらってなにが悪ぃーんだぁ?」 佐天「だーかーらー! そう言われても遠慮するのが大人ってもんでしょ!」 またもよ終わりのない口喧嘩が始まるかにみえたが… 黒子「ハイハイ…もう益体もない口喧嘩は結構ですの」 パンパンと手を叩いてヒートアップしだした佐天と億泰の間に割って入る黒子。 佐天(あれ? 復活してる?) 黒子「わたくしとしたことが居眠りをしていたみたいですわ」 佐天(えええ…聞かなかったことにしたの!?) 黒子「まずは…自己紹介からですわね。 わたくしは白井黒子、あっちの頭お花畑が初春飾利、そしてこちらが…」 佐天「…佐天涙子よ」 億泰「…あぁ オレァ虹村億泰だ」 黒子「存じておりますわ。 それに大体の事情は黄泉川教諭のお話で判りました …ですがまだ聞きたいことがありますの」 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 20 36 11.48 ID eM880pzN0 億泰「あぁ? なんだぁ~?」 黒子「ズバリ聞かせてもらいますわ。 虹村さん、貴方の『能力』は? 『レベル』はいくつなんですの?」 佐天「えっ!? なに!? アンタこんなスキルアウトみたいな格好してて能力者なの?」 億泰「…能力~? あぁ…もしかして『コレ』のことかぁ~?」 そう言ってゴソゴソと学ランの内ポケットから小さく折り畳まれた紙をとりだす億泰。 億泰「オレこーゆー訳わかんねぇ単語並んでっとよぉ~頭痛くなんだよなぁ~」 そう言ってその紙を無造作に黒子に投げ渡す億泰。 受け取った紙の端に印字されている文字を見て黒子と佐天の目が見開いた。 黒子「これは…」 佐天「ちょ、ちょっと! これシステムスキャンの結果表じゃない!?」 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 20 40 43.28 ID eM880pzN0 億泰「なんかよぉ~… こっち来た初日にいろんなことやらされてよぉ~ イーエスピーカード?とやらはもう見るのも嫌になったぜぇ~」 そう言って興味なさ気に椅子に腰掛けて頬杖をつく億泰。 黒子「…私達が見てもいいんですの? これはいわば人体の通知表のようなものなのですわよ?」 億泰「いいぜぇ~ 別にオレァあんま興味ねぇーしなぁ~」 黒子「…そうですか。 それでは遠慮無く拝見させてもらいますわ」 黒子の手の中でパタンパタンと広げられていく小さな紙。 佐天「な、なんか緊張してきちゃった」 黒子「別に気負うこともないですの。 中からサソリや拳銃が出てくるわけでもないでしょうに…」 そして、黒子と佐天は目の前の男の結果表を目の当たりにした。 黒子・佐天「こっ…これはっ!!!」 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 20 48 39.48 ID eM880pzN0 黒子「…これは…どっからどう見てもレベルゼロ…ですわね」 佐天「うん… ていうか…あたしこんな酷い点初めて見たよ…」 億泰「あぁ~? 何だ何だぁ~? なぁに哀しそうな目ェしてオレのこと見てんだぁ~?」 佐天「えっと……まぁ…ドンマイッ!」 ポンポンと億泰の肩を叩く佐天。 しかし黒子は深く考え込んだしていた。 黒子(レベルゼロ? なら…あの時の現象はいったい?) 爆弾魔、介旅を再起不能寸前まで痛めつけた目の前の男。 対峙したときに感じた恐ろしさを覚えるほどの『凄み』 静かになった部屋に紅茶の香ばしい匂いが漂いはじめた。 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 20 52 32.38 ID eM880pzN0 初春「お茶が入りましたよぉー」 億泰「おっ! 待ってたぜぇ~! サンキューなぁ~ 初春ゥ~」 初春「え? ええっ?」 突然億泰に呼ばれ動転する初春飾利。 カチャカチャと盆の上のコーヒーカップが音をたてた。 億泰「…なんだぁ~? もしかして名前間違えてたかよぉ~?」 初春「いえ…あの…そういう訳じゃ…ない…ですけど…」 オドオドと初春が億泰の表情を伺うもの億泰は至極平然としていた。 億泰「…ふーん。 まっいッかァ~」 初春の変わり様にも興味をしめそうとせず、ミルクティーをすする億泰。 億泰「あっ! 苦っ! おい初春っ! 砂糖壺くれっ!」 初春「え? あ、はい! びっくりして忘れてましたー 今持ってきますねー」 パタパタと砂糖壺をとりにいく初春飾利。 その足元が若干いつもとリズムが違うことに気付いたのは佐天だけだった。 佐天(…なんだろ…なーんか気に入らないなぁー) ブスっと頬を膨らませた佐天、深く何かを考えたままの黒子、砂糖壺を億泰に手渡す初春、砂糖をこんもりとミルクティーにいれて至福の億泰。 それぞれの思惑は明かされること無く一日が過ぎていった。 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 21 10 53.25 ID eM880pzN0 ■翌日 学園都市・繁華街沿い 授業が終わり、繁華街を連れ添ってあるく佐天と初春。 佐天「んーっ! 終わったー! さーて、今日も元気に買い食いしよっかー!」 初春「いいですねー 昨日の夜食はたい焼きでしたし…洋風系のお菓子とか…いいですねー」 伸びをしながら佐天が提案し、それにホワホワと初春が同意する。 佐天「うーん…それじゃあ、あそこの角にあるケーキ屋さんは? 確か今日ってレディースデイだったはずよね?」 初春「えーとちょっと待ってくださいねー」 その言葉と共に携帯電話を取り出し確認をとる初春。 初春「あ! ほんとですー さすが佐天さんですねー!」 佐天「フフフ…私はお得なものにはハナが効くのだよ初春クン」 初春「またまた佐天さんったら~」 他愛のない掛け合いをしながら目的のケーキ屋に向かってあるく佐天と初春。 段々と人が多くなっていく大通り。 なんだろ?何かのイベントでもやってんのかねー?と首をひねりながら人の波をかき分けかき分け、目的のケーキ屋にたどり着いた佐天と初春。 そして目の前に広がる光景を見て…絶句した。 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 21 18 58.89 ID eM880pzN0 ケーキ屋というメルヘンでファンタジーな女の子の聖域。 そこにまるで場にそぐわない輩が座り込んでいたのだ。 ムムムと唸りながらダミーのケーキモデルと看板を見比べながら顎をさするのはスキルアウト顔負けの風貌をした大男。 一般の学生がその横を通るのは度胸試しか命知らずとしか思えない格好のそれに… 佐天と初春は見覚えがありすぎた。 佐天「ゲッ!」 思わず声を出してしまう佐天。 耳聡くその声を聞きつけ、振り向くヤンキー。 億泰「おっ! ちょーどいいとこに!」 そこには…ブンブンとこちらに向かって腕をふる億泰がいた。 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 21 22 43.40 ID eM880pzN0 そそくさと自分たちを大きく迂回していく一般の学生達の好奇の目に耐え切れず首をすくめる佐天。 初春「あっ 虹村さんじゃないですか」 興味津々の周囲の視線を気にせず普通に億泰に近づいていく初春。 億泰「よぉ~ 今帰りかぁ~?」 初春「あ、私たちはこれからちょっとお茶しようかなーと。 虹村さんはこれからジャッジメントに向かわれるんですかぁ?」 億泰「あ~…そうするっきゃねーなぁーと思ってたンだけどよぉ~…」 億泰「けど、おまえら…に会えたんなら話は別だわなぁ~」 初春「は…はぁ?」 億泰の言いたいことが判らず生返事を返す初春。 そんな佐天と初春に向かい億泰はこう告げた。 億泰「なぁ…今暇ならよぉ~…ちーっと付き合ってくんねえかぁ~?」 佐天「は…はぁーーっ!?」 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 21 23 47.61 ID eM880pzN0 ■学園都市・ケーキショップ「クリームブリュレ」 店員「お待たせしましたー。 ジャンボチョコレートプリンパフェとクリームあんみつ、メロンソーダでーす」 億泰「うっひょお! キタキタァ~!」 ウッヒョルンルン♪といった仕草でスプーンを握り締める億泰。 佐天「何かと思えば…」 初春「まさか…レディース限定のスイーツを食べたいなんて言われるとは思いもよりませんでしたねー」 呆れ顔でため息をつく佐天と困ったように笑う初春。 億泰「ンマァーイッ! さすがにトニオさんとこにゃあ敵わねえがっ! それでもこいつァ…極上のウマさだぁ~っ!」 佐天「いやもう…ほんと詐欺よね…」 バクバクとチョコプリンパフェを食べている億泰をジト目で見ながら笑う佐天。 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 21 31 59.49 ID eM880pzN0 億泰「あ~ん?」 スプーンを加えたまま呆けた返事を返す億泰。 佐天「だってさ…こーんな不良がプリンパフェなんて可愛らしいもん食べてるだなんて…誰も想像しないじゃない?」 億泰をからかおうとする佐天だったが… 億泰「…オレもよぉ…昔はそう思ってたよ…プリンなんざ女子供の喰うもんだってなぁ~…」 佐天「え?」 不意に遠い目をして語りだす億泰。 いきなり口調が真剣になり、軽口を挟めなくなる佐天。 億泰「なぁ…オメーだって知ってるはずだぜぇ~? プリンはよ…あまくてよぉ…ウメェよなぁ?」 佐天「え?…う、うん。 そう…だけど?」 億泰「だったらよぉ~ …別にオレが好きでも何の問題もねぇーだろがよぉー?」 その言葉と共にまたチョコプリンパフェにとりかかる億泰。 真剣にプリンの美味しさを力説され脱力する佐天。 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 21 38 31.68 ID eM880pzN0 佐天「はぁ…もう好きにしなさいよ」 ため息を吐きながらクリームあんみつをつつく佐天。 そんな佐天を見て隣に座る小さな少女が頭の花飾りを揺らしながらクスクスとおかしそうに笑っていた。 佐天「な、なによう初春ー?」 初春「…だって…おかしくって…」クスクス 佐天「な、なにがおかしいのよ?」 億泰「ん~?」 初春「だって…佐天さんもここのチョコプリンパフェ大好きですよね~?」 佐天「なっ!?」 億泰「ほぉ~ …中々見る目あんなぁオメェ~」 感心したように頷く億泰、ガタリと立ち上がる佐天。 佐天「ちょっ! 初春っ!?」 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 21 44 39.05 ID eM880pzN0 初春「いつも言ってたじゃないですかー『やっぱりこの店はチョコプリンパフェかクリームあんみつの二択だねっ!』って」 佐天「そ、そりゃ言ってたかもしれないけど… 今言わなくてもいいじゃないのー!」 初春「仕返しですよ佐天さん。 私なんかこの店だけで30回近くスカートめくられてますし!」 エヘンと恥ずかしい経歴を胸をはって堂々と告げる初春。 どちらかといえばそんなことを告白したほうが恥ずかしい筈なのだが、初春にとってそれは些細な問題だった。 骨を切らせて皮を突付く。 初春飾利の恐ろしい自爆技に為す術も無く佐天は巻き込まれていく。 佐天「あーもー…」 冷静に考えれば別段恥ずかしがる必要もないのだが、何故かそれが恥ずかしくて悶える佐天。 そんな佐天に興味津々な声がかかる。 億泰「…クリームあんみつってよぉ~…それだよなぁ~?」 佐天「え? う、うん…」 億泰「おいマジかよぉ~ 俺も最初そっちにすっか悩んだんだよなぁ~ …ちょっとクリームあんみつ気になっからよぉ~ちょっぴりかじらせてくれよぉ~」 佐天「えっ? ええっ?」 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 21 50 18.71 ID eM880pzN0 億泰「んじゃ貰うぜぇ~っ」 ヒョイパク 止める間もなく億泰の手が動き、佐天の食べかけのクリームあんみつから一口奪う億泰。 佐天「あっ! あーっ! あーっ!」 間接キス。 そんな単語が佐天の頭を駆け巡り、思わず大きな声をあげる佐天。 億泰「…こっこれはああ~~! この味はぁ~~!!!」 驚きのあまりカランとスプーンを手から落としてしまう億泰。 だがっ! ヒョイパク! 億泰は慌てることなく『クリームあんみつにもともと刺さっていた』スプーンを使いさらにもう一口味わったっ! 佐天「ちょっ! それあたしのスプーンッ!」 億泰「モチモチの白玉とっ! 極上の黒糖がっ! お互いを引き立てあってるぅ! こ、これぞクリームあんみつのベストなバランスじゃあねえかっ!」 佐天「なっ! なにしてんの! なにあたしの食べてんのぉ!?」 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 21 58 50.02 ID eM880pzN0 立ち上がったままプンプンと億泰に抗議する佐天。 億泰「…んだぁ~? いーじゃねーかよ一口くらい…ったく…ケチくせぇーヤロォーだなぁ~」 佐天「野郎じゃないし! そもそも一口じゃないし! 二口食べた! しかもそれあたしのスプーンッ!」 ヒートアップして文句を並べだす佐天。 佐天「だっ大体! 勝手に人のクリームあんみつ持って行ってそんな言い草ってモガァ!?」 ピタリと。 佐天の抗議が途中で止まった。 億泰「うるせェなぁ~ ったくよぉ… 一口だけだかんなぁ~?」 舌の上で弾けるのは幾度となく食べたことのあるチョコプリンパフェとクリームあんみつが混ざり合った摩訶不思議な味。 それがなんなのか気づいた瞬間、佐天涙子の時は止まった。 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 22 04 25.54 ID eM880pzN0 【一秒経過】 佐天の口に突っ込まれたスプーン。 このスプーンは誰のものか? 【二秒経過】 元々は自分が使っていたものだった。 【三秒経過】 だがしかし…これはすでに目の前の男が使ったスプーンでもある。 さらに。 今このスプーンを持っているのは自分ではない。 【四秒経過】 冷静に。 素数を数えて落ち着いた心で佐天涙子は結論を出した。 【五秒経過】 今…自分は億泰が使ったスプーンで億泰の食べていたチョコプリンパフェを『食べさせてもらっている』ということに… 初春「…そして……時は動き出す」ボソリ 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/06(水) 22 11 57.23 ID eM880pzN0 佐天「――ッ!?―――ッ!?」 我にかえり、ガタガタと暴れだす佐天。 しかし、いまだ顔面は硬直したまま。 スプーンを口から離すことも忘れ、あたふたとするだけであった。 億泰「おっ!? なんだぁ~!?」 噛み締められたスプーンにつられてガクガクと腕を揺さぶられる億泰。 事情を知らないものから見ればそれはまるで「はいアーン♥」された似合わないカップルがふざけてるだけのシーンに見えただろう。 初春「あわわっ! あわわわ!」 初春は初春でメロンソーダをボコボコと噴火させながら状況を全力で見守っていた。 勝手に人のオーダーしたデザートを二口食べておきながら一口だけ食べさせるという無茶苦茶な億泰。 顔を真っ赤にしたまま億泰のスプーンを口に突っ込まれている佐天。 テーブルにマグマのようにメロンソーダを噴き出しながら一瞬足りとも見逃すまいと目を丸くする初春。 ケーキショップ「クリームブリュレ」の店員は注意することも忘れ、その奇妙な儀式が収まるまで見守っていた。 122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 01 31 14.27 ID L0ZTmZoC0 [1/17] ■柵川中学学生寮・初春飾利の部屋 夕日が水平線の向こうに沈んだころ、カチャリと音を立てて学生寮の一室に転がり込むひとつの影。 そのままゴロゴロと床を転がりながらムニャムニャと何かを呟いたのは黒髪の少女。 佐天「うー…酷い目にあった…」 初春「佐天さんー 床に寝そべると髪が汚れちゃいますよー」 床に大の字になった佐天を踏まないように気をつけながら、電化製品のスイッチをつけていく初春飾利。 初春「でも…面白かったですよ…あんなに慌ててる佐天さん、初めて見ちゃいましたー」 佐天「うーいーはーるぅー! このウラギリものぉー!」 初春「わっ! やめてくださいってばぁ!」 ムクリと起き上がり初春に飛びつく佐天。 キャイキャイと少女たちはしばしフザケてじゃれあう。 そして気がつけば…どちらともなく床に寝転がり静かに天井を見つめていた。 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 01 32 18.89 ID L0ZTmZoC0 [2/17] 佐天「…ねぇ 初春?」 初春「なんですか佐天さん?」 ポツリと漏れた呟きは天井に吸い込まれていく。 佐天「初春はさー …高能力者になりたいと思う?」 初春「へ?」 佐天「あたしはね…なりたい。 …ううん。 知りたいんだ。 自分にどんな力が秘められているのかって…」 初春「…佐天さん?」 佐天「だってさ。 今のあたしって無能力者じゃない? それってさ…学園都市にいる意味がないと思うんだ」 初春「……佐天さん」 124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 01 33 10.77 ID L0ZTmZoC0 [3/17] 佐天「あーあ… 欲しいなぁ。 力。 自分に自信をもてるような力が…」 初春「っ! 佐天さんっ!」 そう呟いた佐天に初春が覆いかぶさる。 佐天「…初春? どしたの?」 キョトンとした佐天の問に答えず…その薄い胸板に顔をうずめたまま初春飾利が呟いた。 初春「そんな…そんな悲しいこといわないでください」 佐天「え?」 初春「力があったってなくたって…佐天さんは私のいちばん大事な親友なんです」 佐天「…初春」 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 01 34 28.35 ID L0ZTmZoC0 [4/17] 初春「私だって能力のレベルは大した事無いですけど…でも学園都市に来た意味はあると… そう思ってます」 それ以上何もいわず佐天の返事を待つようにジッとしたままの初春。 その頭の花飾りをしばし見つめ、それからニヤリと笑う佐天。 佐天「うーいーはーるぅー!」 初春「ひゃっ、ひゃあ!」 ガバァッっと抱きつかれ悲鳴をあげる初春。 佐天「あーもぉー! 可愛い事言ってくれちゃってぇ!」 そのまま初春を抱きしめゴロゴロと床を転がる佐天。 初春「キャーッ! 佐天さん佐天さん! お花が! お花が散っちゃう!」 佐天「なにぉ? この佐天さんの前で咲き乱れるだなんて挑発的なー!」 そう言いながら先程の湿った空気を吹き飛ばすようにはしゃぐ佐天涙子。 だがしかし。 彼女のその胸の奥には彼女本人が意識することもできない小さなしこりのような感情が残っていた。 前へ 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/695.html
【種別】 機械名 【初出】 十二巻 【解説】 喫煙申請を出した教師に支給される学園都市製の最新モデルの空気洗浄機。 大きさはタバコの箱を二つ積んだ位の機械で、机の四隅にそれぞれ配置して使用するらしい。 十二巻で小萌先生と黄泉川愛穂が使用していた。 この機構を大型化し、要人警護に用いるのが妨害気流(ウィンドディフェンス)である。
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/3411.html
【種別】 人名 【初出】 新約十三巻 【解説】 警備員に所属する男性。作中の様子から黄泉川愛穂の同僚か部下と思われる。 僧正出現の騒動に伴って同僚たちと共に特殊車両でもって鎮圧に現れたが、 その圧倒的な力にあっという間に壊滅。 『六枚羽』と『10本脚』出撃の通達を受けるが、 僧正の力を身をもって体感して腰を抜かしていた。
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/396.html
最終章 蟻群矜持《ボトムスピリット》 前編 第二十三学区 国際特殊環境研究所 研究室のソファーで踏ん反り返りながら、木原故頼は家政夫《ヘルプマン》からの電話を受けていた。 目的だった毒島帆露の拘束は出来ず、10人もの能力者を戦闘不能にされたという最悪の方向だった。 それでも飄々としている家政夫《ヘルプマン》の態度が気に入らず、故頼は一方的に通話を切った。 故頼「ふん。使えん奴らめ。」 亜継「まぁ、あいつらは所詮、雑兵。まだまだ戦力は残ってるぜ。」 故頼「あの時、振動支配《ウェーブポイント》から逃げたお前が言えた口か?」 亜継「一応、貰った金の分の仕事はしたつもりだ。」 故頼「ああ言えば、こう言う。」 亜継「そんなことよりよぉ、さっさと境界突破計画《プロジェクト=アフターライン》について教えてくれよ。」 故頼「まぁ、お前にならいいだろう。」 そう言うと、木原は立ち上がり、学園都市の全体地図を取り出した。 故頼「貴様は・・・“魔術”という存在を知っているか?」 亜継「まぁ、“まじゅつし”なんて奴らを何度かぶっ殺したことはある。俺からすれば、能力者とどう違うのか分からねぇけどな。」 木原「ふん。まずはそこから説明しなければならないか。」 超能力を科学の産物とするなら、魔術はオカルトの産物だ。 才能の無い人間が才能のある人間(能力者)に対抗するために生み出された能力であり、 その力の行使は神話や宗教、学問を基にしていたり、または神話や宗教が過去に行使された魔術を基にしていたりもする。 学園都市の超能力が才能の産物となれば、魔術は努力による産物だ。 亜継「ん~。まぁ、なんとなく分かった。」 故頼(こいつ・・・絶対に理解していないだろうな。) それでも気にせず、故頼は計画について語り続ける。亜継に聞かせて理解させたいわけではない。自分が語りたいのだ。 宇宙頭脳《スペースブレーン》の失敗から落ちぶれ続けた自分が再び、学園都市の表舞台に現れる切っ掛けとなる重要な計画だ。 その理想の実現が目の前まで迫ってきている。その昂る気持ちを計画について語るという行為で発散しているのだ。 故頼「それなら、説明を続けよう。」 魔術はオカルトという科学とは相容れない領域の技術でありながら、エネルギー理論は科学と通ずるところが多い。 いや、発生年代的に考えれば、その逆だ。科学のエネルギー理論は魔術やオカルトをモデルケースにしているかもしれない。 現代ではオカルトとなってしまった錬金術が近代科学の発展に貢献したように・・・ とにかく、魔術の行使にもエネルギーが必要とされる。 天使の力《テレズマ》、地脈、龍脈、世界の力、マナ、思念・・・etcなど、地域や信仰する宗教によって呼称は違うものの、 魔術の行使にエネルギーが必要なことに変わりは無い。 亜継「要するに、魔術は無から有を生み出せねぇってわけか。」 故頼「ふん。そこを理解する頭脳はあるようだな。」 亜継「てめぇ・・・、俺のこと舐めてるだろ。そんで、境界突破《アフターライン》ってのは何なんだよ?」 故頼「境界突破《アフターライン》は、科学と魔術の境界を越える実験だ。」 亜継「おいおい。科学と魔術は相容れないって言ってたじゃねぇか。」 故頼「科学も魔術も行使するのは人間だ。脳の構造さえどうにかすれば、問題ない。」 魔術のエネルギーとして、個人が保有する魔力を使う魔術師も少なくない。 具体的な手順としては、基本的にまず自分の生命力を「魔力」に精製する所から始まる。 生命力、つまり人間の体に元から流れているエネルギーが「原油」だとすると、 魔術を使う前に魔力という「ガソリン」に精製する必要があるわけである。 より具体的には呼吸法などで血液の流れや内蔵のリズムなどを無理矢理いじることで、普段とは違うエネルギーを精製することができる。 宇宙頭脳《スペースブレーン》の生き残った被験体は放射線や無重力環境、非道な能力開発によって通常の人間とは異なる呼吸法を使い、 血流や内臓のリズムも狂ったり、整ったリズムではあるものの通常とは異なるリズムであったりした。 偶然か必然か、実験によって被験体に生じた“身体の歪み”が生命エネルギーを魔力へと精製する回路として成立していたのだ。 亜継「あのガキ共を使って魔術を使おうってわけか?だったら、何でわざわざ第十二学区に運び出すんだ?面倒くせぇだろ?」 故頼「まだ計画について、全てを語っていない。質問は語り終わってからにしてもらおう。」 しかし、被験体たちの身体の歪みによる魔力も計画の実行には十分ではなかった。 そこで最も容易に手中に収められる魔力を必要とした。それが地脈・龍脈だ。 地脈・龍脈は土地に起因するエネルギーであり、地理的条件を踏まえることが出来れば必要な分だけ抽出することができる。 学園都市内で地脈・龍脈からエネルギーを抽出するのに適した場所が第十二学区なのだ。 いや、そもそも第十二学区は学問の性質上、地脈・龍脈を意識して建築物を配置している節がある。 ここまでは実験に必要な材料の説明だ。 そして、これから話すのは実験の趣旨についてである。 これほど似て非であり、案外似ている魔術と科学。これらを組み合わせた何かを開発しようと誰もが考えるし、それが実行されたこともある。 しかし、脳の回路が違う事で能力者が魔術を行使すると異常をきたし、回路の混乱によって脳が破壊されるという結果であった。 この実験自体が正式なものでない為、結果も口伝によって故頼に伝えられたものである。 宇宙頭脳《スペースブレーン》では、その結果の真偽の確認のためという意味合いもあり、同様の結果が得られた。 しかし、得られたのはそれだけではなかった。 魔術の行使によって能力者が死亡した瞬間、もしくは死亡する直前に正体不明のエネルギーを観測することに成功した。 それが何なのか分からなかったが、魔力でもなく、AIM拡散力場でもない第三のエネルギーの可能性も秘めているのである。 もし、それが第三のエネルギーだとすれば、魔力と科学エネルギーの衝突と反発による産物という位相を越えた現象を立証することが出来る。 そうなれば、科学も魔術も関係無い。全く新しく、異なる概念が生み出されることとなる。 宇宙頭脳《スペースブレーン》で観測した際は、突然の出来事もあり、サンプルとして保存することが出来なかった。 故頼「境界突破《アフターライン》はその新エネルギーの採取と解析だ。」 亜継「へぇ。やっぱ分かんねぇ。」 故頼(やっぱり、理解してなかったのか・・・。) 亜継が理解しているかどうかなんて、故頼にはどうでもよかった。 話し終えるタイミングでも見計らっていたのか、丁度良く、何者かが研究室のドアをノックする。 故頼「入れ。」 彼の声と共に「失礼しま~す。」というやや無礼な挨拶と共に一人の男が中に入り込む。 いかにも悪そうな顔つきに白衣の男、細身ではあるが、木原故頼と同じ匂いがする。 男「木原さん。輸送の準備、出来たっす。」 故頼「そうか。では、すぐに出発する。」 亜継「おいおい。明日じゃねぇのかよ。」 故頼「向こうには情報が漏れてしまっている。それに今は能力者集団がスキルアウト共に奇襲をかけているはずだ。 この混乱に乗じて第十二学区に向かう。」 亜継「へいへい。俺は能力者殺しと給料さえ貰えば、どうでもいいんですけどね。」 第五学区 風輪学園 軍隊蟻《アーミーアンツ》が第四支部として体育館を拠点としているのがバレてしまったのか、木原が雇った能力者集団が学園内に入り込んでいた。 全員が能力を発動させる準備をしながら、ゆっくりと学園の奥へと足を進めて行く。 これが悪質なスキルアウトならば、皆で競って銅像を破壊したり、窓ガラス破壊リレーを行ったりするわけだが、彼らはそういったことはしない。 破壊活動を行っている者はいるが、ごく一部にすぎない。 彼らだって、伊達に能力者なわけではない。才能を持ち、それなりに頭がいいのだ。 そういったことが無意味だと理解している。加えて、能力者の寄せ集め集団ということもあって、連帯感がない。 それが破壊活動の拡散を防いでいることもある。 能力者A「軍隊蟻《アーミーアンツ》を潰せば、金を渡すってのは本当なのかよ?」 能力者B「まぁ、金が貰えなくてもいいんじゃね?あいつら、最近調子のってるしよぉ。 無能力者が能力者に逆らったらどうなるか、叩きこんでやろうぜ。」 能力者C「賛成。賛成。ヤンキー系女をファッ○するのもいいなぁ。」 能力者A・B「いやいや、無能力者狩りと強姦は関係ないだろ。」 能力者D「ねぇ。あいつら、そろそろこっちに来るよ♪特攻するのバレバレだっつの♪」 広域探知系の能力を持つ能力者Dが指さす方向に軍隊蟻《アーミーアンツ》が拠点とする体育館があった。 どうやら、熱を探知する能力らしく、数多くの熱源が体育館の中に集中していることに気付いていた。 能力者A「っしゃあ!さっさと潰すぞぉ!」 能力者B「抜け駆けは許さねぇ!」 能力者C「FUCK YOU!!」 騎兵隊ばりのイケイケドンドンで体育館の方向へと走り抜ける3人。その3人に呼応して、他の能力者たちも数名ほど彼らについて行く。 ――――――が、彼らが体育館に辿りつくことはなかった。 突如、轟音と共に一筋の閃光が体育館の壁を貫き、突入していった数名の能力者たちが吹き飛んでいった。 超音速を越えた砲弾の衝撃によって発生したソニックムーブによって周囲も吹き飛ばされていく。 寅栄「てめぇら!行くぞ!」 寅栄の呼びかけと共に数台のトラックが体育館の中から飛び出していく。 先頭のトラックを寅栄が運転し、助手席には冷牟田が座っていた。 冷牟田「レールガンを撃つことで突破口を開くなんて・・・随分と荒いことをするのね。」 寅栄「四の五の言ってる場合じゃねぇだろ。」 作戦は至って簡単だ。 軍隊蟻《アーミーアンツ》が用意していたレールガンを撃つことで突破口を開き、そこをトラックでとにかく走り抜ける。 あまりにもお粗末な作戦だ。 レールガンは予め、パーツ毎に分割していたのを体育館の中で組み上げて完成させた。 一介のスキルアウトが持つには怪し過ぎる武装だが、理論は分かっているのだから、後は材料と電力さえ揃えば何とかなる。 砲身は廃棄予定だったリニアトレインのレール、細かい機器はリサイクル業や廃品回収業で手に入れた家電やロボットのパーツ、 電力はこの学校に供給される電力ラインを全て盗んでレールガンに供給させた。 冷牟田「そんなものを置いて行くのもいいのかしら?」 寅栄「どうせ1発撃ったら砲身が壊れて使い物にならねぇ。元々は使い捨てが目的だからな。」 トラックが飛び出し、舞う粉塵が吹き飛ばされた体育館跡地には砲身が崩壊し、 本体や電力供給の為にある周辺機器はレールガンの衝撃に耐えられずに吹き飛ばされたり、黒焦げになっていたりした。 戦車と同じくらいの大きさを誇るレールガンだったが、スキルアウトが揃えられるパーツで作れば、大型化は否めなかった。 周辺は盗んだ電力ラインのコードが大量に繋がれていた。とてつもなくゴテゴテで手作り感が溢れる兵器だった。 寅栄「よし!このまま一気に突き抜けるぜ!」 トラック3台が正門前の広場に到達した。 正門前の広場もその外にも能力者の姿はちらほらあったが、猛スピードで走るトラックは止められない。 このまま外に出れると誰もが思った瞬間だった。 突如、先頭のトラックがスリップして横転する。 雲ひとつない月明かりの照らす夜であるにも関わらず、まるで雨が降った後のように路面は濡れていた。 いや、“濡れていた”という表現は正しくない。正確に捉えるとすれば、“路面そのものが液状化していた”のだ。 先頭につられて2台目も衝突して正門付近の壁にぶち当たる。 異変に気付いた3台目はすぐにブレーキを踏んだことで液状化した路面の犠牲にならずにすんだ。 冷牟田「痛たたた・・・。トラックの運転も荒いのね。」 寅栄「んなわけねぇだろ。あいつらのトラップか何かだ。」 すぐさま軍隊蟻《アーミーアンツ》のメンバーは横転したトラックの外へと出て行く。 寅栄「お前ら!大丈夫か!?」 仰羽「また傷口が開きそうになりましたよ。」 三上「サークルのメンバーは無事だ。約1名はのびているけどな。」 元気そうに出て来る三上と神座、しかし神山の方は気絶し、三上に肩に担がれていた。 蟻たち「こっちも全員無事です!」 全員の安全を確認してほっとするも束の間、ここは能力者集団の巣窟であることを気付かされる。 ???「ちっ・・・。しぶとい奴だ。こんな居場所のない街で必死に生きようとするお前らが理解できねぇよ。」 そこには一人の少年が佇んでいた。 風輪学園高等部の制服を着ており、黒髪をベースに所々、金色のメッシュをかけている。 何かを恨んでそうな、憎んでそうな表情をしている。 彼の足元を中心に正門付近の地面は液状化していた。 彼の持っている能力、状態変化《コンディションチェンジ》と呼ばれる能力で沸点・融解点・凝固点を操作し、 アスファルトを液状化させていたのだ。 ???「俺は黒丹羽千責。お前らがバケモノと呼んで蔑む能力者さ。」 寅栄「別に、俺らは全ての能力者をバケモノ呼ばわりしたことはないんだけどなぁ・・・。」 神座「バケモノ!?それって、この神座残時ちゃんも入るn―――――――― 全てのセリフを吐き終える前に突如、神座がその場から姿を消した。 全員が「えっ!?」と思った瞬間、茶髪のポニーテールに両目の泣きボクロが特徴の女が現れた。年齢からして、おそらく高校生ぐらいだろう。 彼女は突如、姿を消したはずの神座を胸元で抱え、首筋にナイフを当てていた。 ???「私たちに歯向かわない方がいいですよ。じゃないと、この子の首が血で真っ赤に染まるわよ。」 軍隊蟻《アーミーアンツ》の武装部隊が彼女に銃口を向けた途端、彼らが持っていた全ての武器が消え去り、彼女の元へと転送されてしまった。 白高城天理の能力、座標回帰《リセットポイント》によって、視認できるものは全て、彼女の手中にあるようなものなのだ。 ??「ははっ。これでてめぇらは丸腰って奴だ。よくやったな。白高城。」 白高城「先輩に敬語使えって教えられたよね?木原一善。」 スカジャンにデニム姿、茶髪のコーン・ロウ(編み込み)、左の眉毛にピアスを付けたいかにも不良という姿の高校生、 木原一善が能力者チームの取りまとめをしていた。 一善「故頼のクソジジイの実験の邪魔をしないようにぶっ殺せって言われてるんだョ。だから、悪ぃが全員、ここで死んでもらうぜ。」 寅栄「そんなクソジジイの実験を成功させるために、こんな夜中にスキルアウト退治するなんて、親戚思いな奴なんだな。」 一善「はぁ?あのクソジジイの実験なんざどうでもいい。俺はてめぇらを潰して金がもらえれば、それでいいんだョ。それに・・・」 木原が服の袖をまくり、自らの腕をまざまざと見せつける。 形は人間の腕そのものだったが、それは機械で構成されたサイボーグの腕だった。 外部を人肌に近い合成樹脂で覆い、その内部を衝撃吸収用の硬質ラバー、超強化プラスチック、鋼で構成されている。 一善「せっかく腕を新調したんだ。こいつの性能を試したかったんだョ!!」 一善が突如、サイボーグの腕で寅栄へと殴りかかる。 寅栄は咄嗟に腕でガードするが、白高城が神座の首筋に当てたナイフをちらつかせる。 無論、それは「抵抗するな」という彼女のサインだった。 一善の右ストレートが綺麗に彼の頬へと衝突した。 寅栄「ぐはっ!!」 強固な素材で作られたサイボーグアームによるパンチは通常の人間以上に強力であり、そして拳そのものが凶器だった。 あまりの衝撃に脳が揺さぶられ、眼球が飛び出しそうになる。頭蓋骨が砕けてしまうのではないかと心配するほどのものだった。 仰羽「寅栄さん!」 咄嗟に仰羽が燃素爆誕《フロギストン》を使おうとするが、ライターを白高城の座標回帰《リセットポイント》で奪われ、手も足も出ない。 一善「おいおい。この程度で終わりじゃないだろうなぁ?」 口から軽く血を吐く寅栄に対し、一善は再び彼に殴りかかる。 一善「こいつの性能を試したいからよぉ。まだまだ倒れんじゃねぇぞ!!」 抵抗できず、苦しむ寅栄に対して、一善は一方的に無慈悲なまでに彼を殴り、蹴り、サイボーグの腕から出した爪で斬りつけていく。 あまりにも残忍で、感情の伴った人間がやることなのかどうか疑ってしまう悪魔の所業だった。 能力者集団の中にも「おい。いくら何でもやりすぎだろ。」などと、口に出さなくても既に表情に出している者もいた。 冷牟田「―――――――――――――――――――」 そんな中、冷牟田は部下である神座の救出のために尽力していた。 表向きは、人質を取られたことで手も足も出ず、ただ怯える神座を眺めることしか出来ないように見せかけていたが、 彼女は既に部下を救うためのアクションを起こしていた。 紙片吹雪《コールドペーパー》で誰にも気づかれず、ひっそりとカッター仕込みの紙切れを白高城に向けて動かしていた。 ただのゴミとして認識させるために地面すれすれを低空飛行させる。 冷牟田(あと1m・・・。もう少しの辛抱よ。) 冷牟田が集中して紙切れを動かしていたが、突然、能力者の一人に紙切れを踏みつぶされてしまう。 それは偶然でも不幸でもない。その能力者は紙切れを狙って踏みつけたのだ。 能力者E「こっそり能力を使おうとしたって無駄だ。こっちにはAIM探知系の能力者がいる。能力を使おうとすれば、拡散力場が活性化してバレバレだ。」 冷牟田「くっ!」 白高城「次、こんな小細工をしたら、殺しますよ。」 神座「花柄~!」 黒丹羽「・・・で、そっちはまだ終わらないのか?」 黒丹羽が一善と寅栄の方を振り向く。 もう何度殴って蹴ったのか覚えていられないほど、一善による暴行は続いていた。 しかし、それでも寅栄は立っていた。彼を挑発するように余裕の笑みを見せ、口から血反吐を吐き捨てる。 一方の一善は息を切らし、肩で呼吸するほど体力を消耗していた。さすがに心臓や肺までサイボーグにしていなかったようだ。 寅栄「凄ぇな。凄ぇよ。そんなへなちょこパンチで俺に挑む度胸と無謀さだけは認めてやんよ。」 一善「てめぇ・・・・!!!」 まんまと寅栄の挑発に乗った一善は頭に血が上り過ぎて、血管が浮き上がっていた。 そして、「ぶっ殺す!」という声と共にサイボーグの腕から大きな爪が飛び出してきた。 一善「そんな調子に乗ったセリフが吐けるのは今の内だ。」 ??「それはこっちのセリフだ。」 一同「!?」 突然、聞こえた声の方を振り向くと、正門前には大量の男女がバイクに跨り、エンジン音を鳴らしていた。 そして、能力者たちを挑発するかのようにライトを当てる。 総勢50名近くの大軍隊が風輪学園の正門前におり、その光景は圧巻だった。 蟻P「軍隊蟻《アーミーアンツ》!!我が義を通すために罷り通る!!」 白高城「そんな・・・・、こんなに大勢のメンバーがいるなんて聞いてないわよ。」 白高城がよそ見をした隙を神座は見逃さなかった。 すかさず、手を上に伸ばして彼女を顔を掴むと、無理やり引っ張って自分の視線と合わせる。 神座「さっきのお返しだ!」 神座が白高城にそう告げると、2人の間で眩い光が何度も点滅した。 一瞬の出来事だったが、そこで数十回もの光の点滅が白高城の脳へと働きかけた。 白高城「・・・・・・・・・・・」 空白思考《ホワイトノイズ》 神座残時の持つ催眠系の能力だ。光の明滅により相手の脳内に干渉し、思考に空白を作る。 サングラス等で容易に防がれるが、そのような装備が無ければ光ゆえに防御困難。 光は能力だが、思考の空白は能力ではない。光によって引き起こされる、ただの現象である。 空白思考《ホワイトノイズ》によって白高城はボーッとして、身体から力が抜けたことで神座を解放してしまった。 人質を取り戻したサークルと軍隊蟻《アーミーアンツ》の武装部隊と正門から新たに参入してきた軍隊蟻《アーミーアンツ》は一気に反撃に入る。 他の能力者が発する炎や電撃を掻い潜って武装部隊は白高城に奪われた武器を取り戻し、サークルの神座と三上も能力を使って暗部仕込みの戦闘能力で他者を圧倒する。 蟻P「てめぇら!突入だ!」 一気にバイクで中へと突入する軍隊蟻《アーミーアンツ》の増援。一人一人のスペックが低くても、圧倒的な数の暴力で能力者集団を圧倒していく。 木原一善は真っ先にその犠牲となった。 寅栄をあれほどまで殴って蹴ったことでメンバーの怒りを買い、集中的に積極的に、まるで蟻の群れが虫の死骸に集まるように集中的だった。 蟻P「寅栄さん。大丈夫すか?」 寅栄「お前は・・・・」 寅栄たちの助けに来たのは、九野や緑川の忠告を聞いたことで事件の捜査から抜け出したメンバーたちだった。 寅栄「お前ら、何でここにいるんだ?」 蟻P「何で?って。筋を通しに来たんすよ。“義を以って、筋を通せ。筋を通せぬことを生涯の恥とせよ。” あんたが、それを教えてくれたことを思い出したんすよ。」 寅栄「これは学園都市そのものを敵に回すかもしれないんだぞ!それでもいいのか!?」 蟻P「生き恥をかくぐらいなら、戦った死んだ方がマシっす!」 寅栄「―――――!!」 蟻P「ここは俺たちが食い止めます!寅栄さんは俺らのバイクを使って、ここから逃げて下さい!」 そう言って、蟻Pは寅栄に自分のバイクのキーを渡す。 次々と他の増援も横転したトラックに乗っていたメンバーに自分のバイクのキーを渡す。 「大切に使えよ。」 「傷つけたら弁償だからな。」 「お前は無免許だろ。トラックに乗せてもらうか、誰かと2ケツしろ。」 寅栄「俺たちが逃げるまでの時間稼ぎだ。深追いはするなよ。」 蟻P「うっす!あと、第二三学区に張り込みしてた連中から伝言っす。」 ―――――木原に動きあり。第5学区高速道路を走行中。――――――――― 寅栄「分かった。伝言ありがとう。武装部隊とサークルは離脱する!俺たちの目的は本丸を潰すことだ!」 蟻たち「うっす!」 鉄パイプや金属バットを振り回して能力者集団を必死に押さえこむ軍隊蟻《アーミーアンツ》の増援たち。 発火能力《パイロキネシス》に身を焼かれ、念動力《サイコキネシス》でその身を飛ばされても再び立ち上がり、 それぞれが機能を果たすことで軍隊蟻《アーミーアンツ》という一個の生命体のような連帯攻撃だ。 蟻Q「ご武運を祈ります!」 仰羽「おう!お前らも無理するなよ!」 増援に護られながら、数十台のバイクが正門から抜け出し、横転しなかった3台目のトラックが横転したトラックを抜けて風輪学園の敷地外へと出ていった。 蟻P「さて・・・と。寅栄さんには時間稼ぎって言ったんだけど・・・・」 蟻Q「ああ。うちのリーダーをボコった奴を見逃すのは筋が通らねぇな。」 蟻R「ちょっくら、軍隊蟻《アーミーアンツ》の・・・無能力者《レべル0》の恐ろしさを教えてやる必要があるみたいだな。」 喧嘩上等と言わんばかりに腕や指をポキポキ鳴らして、戦闘態勢に入るメンバーたちと能力者たち。 無能力者の意地と能力者のプライド、互いに点いてしまった火はぶつかり合わないと消せないようだ。 第五学区高速道路 第二三学区から境界突破に必要な被験体を運び出した故頼たちは第五学区の高速道路上にいた。 警備員《アンチスキル》でも少数しか配備されていない大型の軍用トラック。対 戦車ミサイルにすら耐えうる強靭な装甲を持ちつつも、スポーツカーに退けをとらないスピードと機動力を有するトラックだ。 正直言って、トラックと言うよりは装甲車に近く、屋根のハッチから亜継が顔を出し、搭載されている電磁狙撃砲を構えているのだから、 ますます戦場を滑走する装甲車に見える。 第二三学区の第一二学区は隣接しているのだが、第二三学区の職員と言えども第二三学区内での行動範囲は制限されており、 第五学区寄りに研究室を構えていた故頼たちは第八学区、第一二学区側の出口の利用が出来なかったのだ。 そのため、第五学区、第八学区の高速道路を経由して第一二学区へと向かわざるを得ないのだ。 亜継が与えられたオモチャを遊ぶ子供のように搭載された電磁狙撃砲をいじくり回し、撃つ構えで装甲車の前方をスコープで覗く。 亜継「ん?」 亜継の独り言が通信機で運転席にいる故頼へと伝わっていた。 故頼「どうした?」 亜継「警備員《アンチスキル》が検問を敷いてやがる。電磁狙撃砲でブチ殺しとくか?」 故頼「武器と姿を隠せ。我々は形式上、“合法的な輸送”を行っているのだ。わざわざ事を荒立てる必要はない。」 亜継「ちっ。つまんねぇな。」 亜継は楽しみであった戦闘のチャンスを逃すと、面白くなさそうな顔で武器を隠し、自身も装甲車の荷台の中へと姿を隠した。 検問所へと辿りつくと、数名の警備員《アンチスキル》がバリケードを張り、工事現場にある光る棒で装甲車に止まるように指示を出し、故頼たちもそれに従った。 一人のポニーテールで警備員《アンチスキル》の防護服の上からでも分かる巨乳の持ち主が運転席へと近付いて来た。それは紛れも無く、黄泉川愛穂だった。 第七学区の担当である彼女がなぜ管轄外である第五学区の高速道路にいるのかは分からないが、そんな事情を知らない故頼たちは疑問に思いもしなかった。 黄泉川「はいはいーい。ちょっと止まるじゃんよ~。」 故頼「何事だ?」 黄泉川「第二三学区から、機密情報を外部に持ち出されたって通報があったじゃん。悪いけど、中身を見せてもらうじゃんよ。」 故頼「我々は学区の許可を得て、合法的に積み荷を運んでいる。」 その証拠に、故頼は第二三学区が発行している持ち出し許可証を黄泉川に見せつける。 黄泉川「だったら、中身を見ても問題無いじゃんよ。」 故頼「内部には機密情報も詰まっている。中身を見るなら、統括理事会の許可証を提示して頂きたい。」 黄泉川「・・・・・・。」 故頼「もう用は済んだかね?我々は先に行かせてもらおう。」 黄泉川の不服そうな顔を見下ろしながら、故頼は装甲車のアクセルを踏んで検問を通り抜けていった。 それを見届けると、黄泉川は携帯電話を取り出して、何者かに連絡をとった。 黄泉川「九野先生か。1,2分しか時間稼げなかったじゃんよ。」 九野『ご苦労だった。たとえ刹那でも稼いだ時間に意味はある。』 黄泉川「意味があるって・・・」 九野『後は、軍隊蟻《アーミーアンツ》に任せるさ。』 警備員A「いいんですか?行かせちゃって?」 黄泉川「この検問自体、違法なものだから仕方ないじゃんよ。それに、ちょっとだけど、時間稼ぎにはなったじゃん。」 警備員B「みなさん、来ましたよ。」 警備員Bが指さす方向にいくつものライトがこちらに向かってくる。 それは、十数台のバイクと1台のトラックで構成された軍隊蟻《アーミーアンツ》の武装部隊だった。 警備員C「検問を開けろ!」 警備員《アンチスキル》たちは検問を開けて、軍隊蟻《アーミーアンツ》を素通りさせる準備をした。 そして、アクセルを緩めることなく、バイクとトラックは全速力で検問を通過していった。 黄泉川「あ~あ。油断して、武器が丸出しじゃん。」 そう言って黄泉川は、軍隊蟻《アーミーアンツ》があの事件の被害者の無念を晴らし、故頼の実験を阻止してくれることを信じて彼らを見送った。 ちゃっかりと武装している証拠写真を撮りながら・・・ 最終章 蟻群矜持《ボトムスピリット》 後編 につづく
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/3779.html
【種別】 施設 【初出】 アニメ とある科学の一方通行 第1話 【解説】 学園都市第四学区に存在する研究施設。 圧縮空気の研究を行っており、黄泉川は酸素ボンベでも作っているのかと想像していた。 裏では対一方通行用兵器を極秘で開発しており、 鷹田ら3人の襲撃を受けて施設は半壊、兵器も奪われてしまった。